14. 14 過去との遭遇
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「はあ……はあ……もうだめ」
三百メートルを泳ぎ切り、プールサイドに両手をつけ肩で息をする高見。
「先輩、お疲れ様です」
一足早く日課の五百メートルを泳ぎ終えた彩花がプールサイドから伸ばした手を掴むと、高見は力を振り絞ってプールの水から這い上がった。
「はあ……はあ……神薙さん、わ、悪いんだけど……先生に伝えてきてくれないかな」
プールサイドから上がっても四つん這いの状態から立つこともできない高見はなんとか顔を上げ彩花に伝言を頼む。そして、そんな様子をみた彩花は顔に少し笑みを浮かべて答えた。
「はい!それじゃあ私は、ちゃんと先輩がノルマをこなしたことをた高梨先生に報告してきます」
彩花は、近くにあったウィンドジャケットの上着を羽織ると小走りでプールの出口へと向かって行く。
「……もう駄目」
彩花が出入口から出たのを確認すると、横に倒れプールサイドに大の字にひっくり返った高見。身体に残留する疲れに身を任せこのまま寝てしまいそうになるのに必死に抵抗していた。
「なんかすっきりしたな……」
全力でなにも考えずただガムシャラに身体を動かした結果、高見はこの学校に転校してくるきっかけとなった忌まわしい事件の事を一時とはいえ思考の中から追い出すことができた。
「このまま寝ちゃうか……えっ」
眠気と疲れにに身を任せ、このまま目を閉じてしまおうと思った時高見の視界にある光景が映った。
「あ、あれは……あの化け物は」
視線の先にいたのは、夏休みの最中に彼と幼馴染の詩織を襲ったトカゲの化け物に似た怪物が数匹が張り付いていた壁を伝い換気窓を開けて出ていく姿だった。
突然現れた行方不明となった詩織の手掛かりの出現に、高見は先ほどまで疲れていたことも忘れる勢いで身体を動かし出口へ向かって駆けだしていった。
一方その頃、自分達の姿を目撃された事にも気づかなかった数匹のトカゲの化け物たちは校舎の屋上に集まっていた。
「ソレでどうだった?」
「ヘヘヘ、いい女だったぜ」
数匹の化け物たちは、先ほどまで覗いていた彩花の事を肴に盛り上がっていた。
この化け物たちは、ヤモールの劣化クローンである。種の絶滅に陥った彼らは自らの細胞をクローニングし種を存続しようと考えた。だが、誕生したクローンは短命なうえ、遺伝子的に欠陥があり彼らの姿や身体能力を完全に再現することは不可能だった。
だが研究が続けれていくにつれ、外見を人間の五歳児ぐらいのサイズに調整すれば寿命を多少伸ばすこととある程度の身体能力を持たすことができる事を発見した。
そして、そのクローンを作成し自分の部下として扱い行動するヤモール達が現れた。
「トッケイの野郎の遺産と聞いた時はあまり期待していいなかったが、イイ女じゃないか」
「ゲへへ、ハーハイ様気に入ったんですか?」
「ああ、顔も身体もオレ様の好みだ。是非ともオレのメスにしたい」
先ほど録画された映像を見ながら、三十センチほどの長い首を持つ全長二メートルを超えるヤモリの化け物、ハーハイは画像を閉じ立ち上がった。
「それじゃあ行くぞ」
「へイ……」
次の瞬間、先ほどまで騒がしかった屋上に急激な静けさが訪れたのだった。
「まったく、高梨先生てば……」
彩花は、保健室に置いてあった置手紙で高梨先生が急な用事で出かけてしまった事を知り呆れていた。
「せめて、出かける前に一言声をかけてくれればいいのに」
いつもの事ながら傍若無人な対応をする高梨先生の事を考えながら室内プールに戻ろうとした時、自販機の存在に気づき立ち止まる。
「高見先輩に、お茶でも買っていってあげようかな」
と思いウィンドジャケットのポケットの中を探り小銭入れを取り出す。
ガチャーンと音を立て日本のペットボトルを取り出し再び歩き出そうとした時、彩花の鼻腔に良い匂いが漂う。
「……なんだろう、これ。すごくいい匂い……」
嗅いでいるだけでもたまらなくなってしまう甘い匂いに導かれ、彼女は室内プールに戻るルートから外れ校舎裏の林の方へと向かって行った。
「ヘヘヘヘ、成功だ、成功だ」
「ゲヘヘ、上手くいったぞ、上手くいったぞ」
そんな彩花の様子を木の上から見て喜んでいる二匹の小型ヤモール達がいた。