二次創作サイト
登録者数: 70
lion
作品閲覧
ララと奇妙なダンジョン
潜入先で倫理観ゼロの犯罪者に変態アナル舐め奉仕させられた結果
NTRハウス
あまえんぼ
素晴らしき国家の築き方
彼女が奴隷になった理由-女盗賊シルフィと眠らない島-
プリンセスクエスト 羞恥と屈辱の姫君
Le dernier saint chevalier
ーchapter4ー彼女の選択
作:クマ紳士連絡
create
2019/04/19
today
1
total
1466
good
24
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

クマ紳士

「大丈夫? タマ姉?」

「……大丈夫よ。ごめんね、タカ坊。ただの二日酔いだから」

環は隣を歩く貴明から心配された。昨夜、夜中に帰って来た環は、酷く酒臭かった。貴明は初めて見る環の姿に、目を丸くし夜中に介抱した。酔っていたにも関わらず、走って来た環は帰るなり嘔吐し、酷く衰弱していた。こんなに弱々しい環を見るのは、風邪を引いた環以来だと貴明は感じた。

「そんなに楽しかったの? 美香さん達との食事会」

「え、ええ……。つい、はしゃぎすぎちゃったわ。普段飲まないのに、お酒飲みすぎて、酷い姿を見せたわね。ごめんなさい」

「また謝った。変だよタマ姉。らしくないよ。そんなに謝ってばかり。楽しかったなら、謝らなくていいんだよ」

貴明の言葉に環の胸がズキズキ痛む。美香達との食事会が楽しかったなんて、嘘だ。知らない男達が来たし、合コンに参加してしまい、さらには貴明以外の男とキスをしてしまった。貴明に心配される度に心苦しく、全てを話してしまいたい衝動に狩られる。

……駄目よ。絶対ダメ。タカ坊に、言えるわけない。知らない男にキスされて、舌まで入れられたなんて……。

環は知らず、唇を指でなぞった。貴明とは違う、分厚く硬い唇がまだ環の唇に残っている気がした。思い出す度に悔しく、腹立たしい。つい歩くのをやめ、立ち止まると貴明が心配そうに環の名を呼んだ。

「……ねえタカ坊。お願い、キスして」

「え? ここで?」

貴明は自分達の周りを見渡した。九条院の校舎からは離れていたが、まだ敷地内だ。本日の講義は終了し、帰宅する生徒も少なくない中、環からの要求に貴明は落ち着きなく辺りを気にし始めた。

「だめ……?」

「うっ……!」

……反則だろ。

貴明は一気に顔が赤く染まった。環は貴明に潤んだ瞳を向け、キスをねだった。普段は強気に貴明をリードしてくる環が、こうして時々甘えてくるギャップに貴明は弱い。惚れた弱みと言われればそれまでだが、環の瞳の魔力に逆らえず、貴明はすぐに環の唇に吸い寄せられた。

「ん……たかぼ……っ」

「ん、ん……たまね……っ」

貴明が環に顔を寄せると、環は目をつむって受け入れた。互いの唇が重なり、触れ合う。少し湿った感触を互いに感じるとともに、2人とも互いに愛情を感じていた。唇を離したり、付けたり、触れるだけのキスを繰り返す。貴明だけでなく、環の頬も赤く染まり、キスから感じる愛を噛み締めていた。

……タカ坊のキス。私を包んでくれる、タカ坊の蕩けるような甘いキス。タカ坊と付き合ってから、何回もした大好きなキス。

環は貴明とのキスの味に酔いしれながらも、昨日の合コンでの獅王のキスが頭をよぎっていた。無理やり唇を奪われ、気持ち悪い唾液を付けられ、さらには唇の間を割って舌を入れられた。吐き気を催す、嫌悪すべき愛情の欠けらも無い乱暴なキス。そのはずが、

「タカ坊……っ」

「ッ!? ~ッ!?」

貴明は驚きのあまり、環の唇から離れ、口元を抑えてしまった。環は貴明の反応に目を伏せ、肩を落とした。その反応に貴明は戸惑うが、それ以上に今された環からの行為に耐えられそうになかった。

……タマ姉、舌を、入れて……?

付き合ってから環としてきた、お互いの唇を触れるだけのキスとは全く違う大人のキス。ディープキスとしての知識は、貴明にもあるが今までした事はなかった。付き合い始めた頃から、貴明と環はお互いの唇に触れるだけで満足していた。お互いに愛し合っている、大切に思っていると感じるキス。それがいきなり舌を入れられ、貴明は戸惑った。

「タマ姉、今……」

「ごめんね。イタズラしちゃった。た、たまに大人のキスもいいかと思って、ね」

環は笑顔を作ったが、嘘が丸わかりの笑みだった。付き合う前の貴明なら、騙されていたかもしれないが、環と付き合うようになって貴明も彼女の感情が分かるようになって来た。明らかに環は、貴明の反応に気を落とした。貴明を傷付けまいと、嘘を付いている。環の欲求に答えられなかった自分が悪いと、貴明は反省した。リベンジの機会を得ようと、貴明は環にもう一度キスをしようと口を開きかけたが、

「~~~♪♪」

「あ、ごめんタカ坊。電話だわ。出ていい?」

「あ、うん。いいよ」

貴明はなんてタイミングの悪い電話だと、肩を落とした。環は貴明に背を向け携帯の画面を見る。表示された番号は、環の知らない番号だった。

……誰かしら? こんな番号、知らないけれど……?

環は受け取るか迷ったが、貴明に電話に出ると言った手前、一応電話を受けようと応答ボタンを押し、耳に当てた。

「もしもし? 向坂ですけど……」

どなたですか、と相手を確認しようとすると、

『ハロー!たーまーきーちゃーん!獅王で~す!』

「ッ!?」

電話口から聞こえた声に、環は自分でも信じられないくらいに反応してしまった。背筋に悪寒が走り、変な汗が滲み出てきた。貴明とのキスの時にも頭をよぎった獅王の顔が今はハッキリと脳裏に浮かんだ。

「タマ姉? 誰から?」

「あ……っと……」

環は一瞬、頭が真っ白になった。電話口の相手はもしもーしと何度も呼びかけて来ている。貴明が環の顔を覗き込む。環は自分でも分かるくらい顔が青ざめているのが分かる。

……ダメ! タカ坊に言えるわけない!

判断に迷った環だったが、貴明に昨日の出来事を話す勇気がなく、咄嗟に一芝居打とうと口が動き出した。

「もしもし? ごめんなさい。電波が悪くてよく聞こえないわ。場所を移動するから、少し待っててもらえるかしら?」

電話口の相手に伝え、スピーカーの部分を手で抑えた。環は貴明に不自然にならないよう、なるべく自然体な笑顔を作った。

「タカ坊、何だか相手の人の声が聞こえにくいみたいなの。ちょっと向こうで電話してくるわね」

「そうなんだ? いいけど、変な電話だったらすぐ切った方がいいからね」

貴明の忠告に、ありがとうと礼を述べながら環はその場を離れた。環は貴明から充分に距離を取り、近くの校舎の壁に寄りかかった。一呼吸入れて、電話を再開する。

「……もしもし」

『あ、もうOK? 彼氏君は近くに居ないの、環ちゃん』

相変わらず馴れ馴れしい態度だった。こちらを小馬鹿にしたような態度に電話口でも腹が立った。環は声を振り絞りながら要件を訊ねた。

「何の用? と言うか何で私の電話番号知ってるの?」

『君のお友達からだよ。合コンの最後にちょちょっとね』

環はその時、今更ながらに気付いた。あの時獅王達は愛生と美香を酒に酔わせた隙にイヤらしい写真や動画を撮影していたのだ。さらには彼女達の携帯を奪い、こうして環の番号も手に入れている。かなり用意周到に手を回されていた事に環は愕然とした。

『君の彼氏君、河野くんの番号もあるよ。あとで電話してあげようか?』

「やめて。要件はなに?」

『釣れないなぁ。あんなに愛した仲なのに』

獅王の言葉に、環はまた固まる。悔しさで下唇を噛み締める。

「変な言い方しないで。貴方みたいな最低な男、二度と会いたくないし、こうして口を聞くのだって吐き気がするわ」

『俺は違うよ。今でも環ちゃんとのキスを思い出すと興奮する。舌を入れてあげた時の、環ちゃんの真っ赤な顔……最高だった』

「やめなさい! 私に馴れ馴れしくしないでって言ったはずよ!」

『合コンではしないって言ったね。でも合コン終わったでしょ。今は違うよ』

「~~ッ! 切るわ!」

環は我慢の限界だとばかりに通話を打ち切ろうとするが、獅王は予想していたかのように本題を切り出し始めた。

『今から会おうよ。住所言うから、すぐに来て』

「なに勝手なこと……行くわけないでしょ」

『いいの?』

「なにが……」

『環ちゃんとのキス写真、彼氏君に送っちゃうよ?』

「ッ!!」

環は薄々予想はしていた。愛生達が撮影されて、自分だけがされないはずがないと。そして自分の弱みを握られてしまったと、自分の不甲斐なさに歯噛みする。たかがキスと、軽く考える人間もいるだろう。しかし、環にとって貴明を裏切ってしまった証拠を突き付けられるのが一番怖かった。知らぬ存ぜぬを、押し通せない。貴明に見られれば、追求は免れない。一時我慢すれば、唇を不意打ちで奪われたと告白すれば、丸く収まるかもしれない。しかし、

「……どこに行けばいいの」

環は、貴明に知られるのを恐れた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ようこそ、環ちゃん!」

「……」

伝えられた住所は環が普段目を逸らしてきた歓楽街の地区だった。貴明に用が出来たと嘘をでっち上げ、足早に獅王の元へと向かった。獅王に直接会い、写真を取り戻し、今度こそ自分に逆らわないように締め上げるつもりで足を運んだ。そこに待っていたのは、煌びやかな看板にホストクラブと書かれた店。中では白いスーツに身を纏った男達。指名はありますかと問われ、環は獅王の名前を口にした。店の中はアルコールの匂いで充満し、透明なテーブルと長いソファーがある席で待つよう言われた環は、膝に手を置きじっと耐えた。しばらくして、上機嫌な様子の獅王が手を広げてやって来た。

「待った? 環ちゃん? 指名ありがとね」

環の隣に勢いよく座った獅王は、俺の奢りと口にしながら、シャンパンを一本テーブルへ置いた。

「今日も可愛いね。合コンの時も思ったけど、環ちゃんスタイル抜群でエロすぎるよ」

「本当に最低。いいから黙って」

環の今日の格好は赤いワンピース一体型の膝丈までのフレアスカートだった。胸元は大胆に露出し、スカートから伸びる足には黒いストッキングを履いていた。獅王は胸元もだが、スカートから見える環のストッキングに包まれた脚線美に無遠慮に目を向けていた。

コイツ……!

環は苦々しい表情を浮かべ、嫌悪感たっぷりの眼差しを獅王に向けた。

「写真を消して。二度と私の前に現れないで。約束出来ないなら、今度こそ本気で潰すわ」

環は本気だった。店側がどうだろうと知った事ではない。単身乗り込んだのにも自分に自信があるためだ。不意打ちさえなければ、自分が獅王如きに負けるはずがないと。環は確信していた。

「怖い怖い。良いよ。消してあげる」

獅王は両手を上げて一度降参の意を示し、自らの携帯を操作した。環に一度キス写真を見せてから目の前で写真を削除した。呆気ない幕切れに、環は違和感を覚えた。

「……どういうつもり?」

不信感を覚えた環は獅王から距離を取ろうと、座りながら後ずさり。獅王の考えが読めず、環は困惑してしまった。

「簡単だよ。俺、環ちゃんに嫌われたくないからさ」

「どういう……?」

「俺と付き合ってよ、環ちゃん」

軽く放たれた言葉に環は呆気に取られたが、すぐに顔を顰めて悪態をつくように返事を返した。

「お断りよ。私にはちゃんと彼氏がいるもの。貴方みたいな軽薄な男、好みの正反対に位置する最低のクズよ」

獅王のニヤついた笑みを消すべく、ハッキリと環は拒絶した。周りのテーブルでは白いスーツに身を包んだホスト達に囲まれた女性達が楽しく談笑している。環と獅王のテーブルからだけ放たれる緊迫感は、周りの客やホスト達には分からなかった。

「だよね。知ってた。実はさ、俺も環ちゃんみたいな暴力女、大っ嫌いなんだよね」

獅王は笑みを消さなかった。しかし、その笑顔は作り物の薄っぺらいものから、腹黒い底知れぬ闇を抱えた物へと変わっていた。環は獅王の変化を感じ、肩を強ばらせて表情を引き締めた。

「嫌いで結構よ。だったらもう二度と、私に近づかないで」

「いやだよ」

「なんですって……?」

困惑する環をよそに、獅王は胸元からタバコを手に取りライターで火を付けた。環はタバコの匂いが自分に付くのを嫌がり、僅かに身を逸らした。

「環ちゃんの性格はともかく、身体は最高だ。君の身体見るだけで、勃起しちゃいそうなんだ」

「ぼッ!? ~ッ!? 変なこと、言わないでッ!」

タバコを吹かせながら淡々と述べられた言葉に環は怒りを露わにした。こうまでハッキリと身体が目的だと言われたのは初めてだ。環は常に堂々としているし、スタイルの良さは嫌でも分かる。しかし、獅王のようなイヤらしい目的で環を見、さらにはそれを本人に告げる常識外れな相手は今まで出会ったことがなかった。

なんなの? 勃起って、アレよね? 何を平然と、そんなこと……。

環は困惑しながらも、獅王の穢らわしい視線から隠すべく、咄嗟に胸元を手で隠してしまった。その反応に、獅王は舌舐めずりする。

「今の反応良かったよ。環ちゃん、やっぱりウブなんだね。普段はあんだけ強気なクセに、意外と攻めに弱い。エッチももしかして、受け身かな?」

「~~ッ! あなたには関係ない!」

獅王に見透かされたような台詞を口にされ、環は咄嗟に噛み付いた。しかし、その反応は図星を刺されてしまったと言っているようなもの。獅王は声を押し殺して笑っていた。

コイツ……! 調子に乗って! 私達の何が分かるって言うのッ!

環は羞恥に僅かに頬を染めた。貴明とのセックスでは、環が最初はリードするが貴明に抱かれている内にいつの間にか攻守が逆転している事が多かった。獅王の言う通り、環は貴明とのセックスの際に途中から受け身になり一生懸命に環を愛そうと頑張る貴明に、環は弱かった。貴明のペニスは、とても大きいとも、太いとも、硬いとも言えないが環にとっては、貴明のペニスと言うだけで価値がある。貴明にとってのご褒美セックスは、環にとっての褒美でもあった。

「ますます欲しくなったよ、環ちゃん」

「あなたさっき、私の事が嫌いって言ったじゃない。嫌いな暴力女が欲しいの?」

環には理解出来なかった。獅王の言葉は支離滅裂だ。一体何が言いたいのか、全く分からない。環はいつしか、獅王の顔色を伺っていた。得体の知れない相手に隙を見せないよう、警戒する。

「欲しいよ。環ちゃんを″使ってみたい″」

「何を言って……?」

「俺のセフレになってよ。環ちゃん」

獅王の口から出た言葉に環はますます困惑する。聞き慣れない単語に、顔を顰めた。九条院で数々の難問を理解し、数々の争いを諌めてきた環が、声を出せなかった。空気を求めるように口を動かすが、声が出ない。環は本能的にセフレは知らなくていい単語だと警戒した。自分の人生には、絶対要らないものだと、直感的に感じ取った。

「セフレって知ってる? セックスフレンドの略。つまり、俺とセックスするだけの関係になってって事。俺が呼んだら、セックスしに来る関係。分かった?」

固まる環をよそに聞きたくないセフレの説明を始めた獅王。環は身体を震わせ、指の関節を鳴らした。環にとって、ここまでの侮辱は生まれて初めてだった。彼氏彼女の関係どころか、身体だけの関係になれと宣う獅王の神経が信じられず、環は隣に座る男の息の根を今すぐ止めたい衝動に駆られた。

最悪ッ! 最低な、クズッ! ここまでトサカに来たのは久しぶりだわ。寄りによって、私を娼婦扱いするなんて……ッ!

相手を射抜く殺気に満ちた瞳を向けられながらも、獅王は何故か余裕の顔だった。環はその余裕の表情が気に食わず、席を立って怒りの感情そのままに獅王に腕を伸ばしかけた。しかし、獅王はそれより早く、環を追い詰める一言を口にする。

「環ちゃんが手に入らないなら、愛生ちゃんと美香ちゃんの2人を貰うよ」

「なんですって……?」

獅王が口にした言葉は環を止めるには充分だった。獅王は携帯を取り出し、画面に半裸の愛生と美香の写真を映した。その写真を見て、環は目を見開き、あまりの苛立ちに顔が酷く歪んだ。元々が整った顔立ちの美人である環は、まるで般若のように恐ろしい形相を浮かべていた。

「消しなさいッ! 2人にも、手を出さないで!」

鼻息荒く、余裕なく告げた環の言葉に獅王は耳を貸さなかった。それどころか、足を組んでテーブルに乗せて、余裕の態度を見せる。

「聞いてるの? その写真を……ッ!」

「環ちゃんには関係ないでしょー。愛生ちゃんと美香ちゃんがセフレになってくれるってんなら、君には手を出さないんだし。2人が決める事だと思うな。世の中、愛よりセックスを取るやつだっているんだよ?」

環には信じられなかった。獅王が口にするような快楽だけを求める愛のない行為が、恋人同士の営みに負けるわけないと必死に自分を奮い立たせる。獅王の言葉に惑わされ、流されては駄目だ。自分の代わりに2人がセフレにされるなんて、耐えられないと環は歯を食いしばる。

「私の代わりなんて、許せるわけないでしょう!? 2人に手を出したら、絶対に許さない!」

獅王は人質のつもりで愛生と美香の名前を出したのかもしれないが、逆効果だった。環は2人に手を出すつもりならとこの場で獅王を制裁するつもりだ。興奮して周りが見えなくなり始めた環は、獅王の胸ぐらを掴んでいた。さらには大声で怒鳴り始めた環に、周りの客やホスト達もさすがに騒ぎ始めた。しかし、興奮する環をよそに獅王は至って冷静に口を開いた。

「環ちゃんの彼氏、河野くんだっけ?」

獅王が突然、環の最愛の彼氏の名前を口にした。貴明の名前を出され、環は身体の動きを止める。

「環ちゃんがそこまで怒るなら、2人には手を出さないよ。元々好みじゃないしさ」

くっくっくと声を抑えて笑う獅王を環は黙って見つめた。もはや、2人の事はどうでも良かった。貴明の名前が出てきた事に、環は過敏に反応する。

「例えば、環ちゃんがセフレにならないなら、彼氏君が事故に逢っちゃう、とかどう? 今からさ。腹に穴が空いたりとか、バリエーションは色々あるけどさ」

「そ、そんなハッタリになんかッ!」

噛み付く環に獅王は携帯を操作し、環に向けた。獅王がかざした携帯には、貴明が写っていた。どうやら買い物中らしく、近くのスーパーの店内が背景に写っていた。

「あ……あ、あぁ……や、やめて」

獅王から手を離した環は、震える声で懇願した。獅王の用意周到さは、今までの会話で充分に分かっていた。貴明も今日の帰りに一緒にスーパーに行こうと口にしていた。携帯に写っている貴明は、今現在の貴明。獅王の言う通り、すぐにでも貴明は付けられている誰かに襲われる。最愛の、何よりも大事な彼が。

「ごめんなさ~い! ただの痴話喧嘩で~す! 気にしないで下さいね~!」

獅王は周りの客相手に愛想を振り撒き、本気でないことをアピールした。
客達は安堵の息を吐き、宴を再開する。対して環は、動きを止め、解決策を必死に頭で考えていたが、

「1ヶ月でいいよ」

「ッ!?」

環は身体が勝手に反応してしまうのを、抑えられなかった。貴明を助けたい。自分のせいで彼が傷付くなんて、耐えられないと環の脆い部分が表面に浮き出てくる。環は自分より他人を気づかい引っ張る姉御肌の性格だった。面倒見がよく、愛想もいい彼女は昔から物事の中心にいた。たまに暴走するのが玉に瑕とはいえ、基本的には優しく相手を安心させる温かさを持っていた。

「環ちゃんがさ、1ヶ月耐えたら、君たちにはもう手を出さないって約束してあげる」

獅王は環を追い詰めたと確信し、環の肩に手を回す。肩に置かれた手に環は僅かに肩を震わせるが、振り払うことも出来ず、喉元を鳴らした。

「1ヶ月だけって……その後手を出さない保証が、どこにあるの?」

環が振り絞った声に獅王は笑いを堪えるのに必死だった。蚊の鳴くような心細い声。今までの女達と同じように、所詮環も女だと、獅王は見下した。

「俺、飽きっぽいからさ。毎月セフレの相手違うし。管理も面倒だから、10人までって決めてんの」

最低の理由だった。獅王から紡がれた理由は、ますます環の心をどん底に落とした。恥辱と屈辱をいっぺんに味わった環は、喉の乾きを覚えたが、目の前の酒に溺れたくはなかった。

「環ちゃんは今月の7番目。セフレ7号。昨日見てから、絶対手に入れるって思ってたんだ」

「最低ね……」

環に顔を寄せ、耳元で囁かれた獅王の囁きに環は怒りで頭がどうにかなってしまいそうだった。しかし、獅王に手を出すわけには行かず、口だけの抵抗を見せる。それに気を良くした獅王は、環の身体をゆっくりと弄り始めた。

「環ちゃんの身体がさ、どれだけ最高でも、俺飽きちゃうと思うんだ。今まで出会った女は、最初は嫌がってもすぐに俺のを欲しくなる。ウザくなって捨てる。その繰り返し」

「や、やめ……んッ!」

環のミニスカートからはみ出たストッキングに包まれた太ももに手を這わせる獅王。肉付きのいい環の太ももの感触を味わうように撫で回す。環はすっかり弱気になってしまい、どこまで抵抗すればいいのか分からなくなってしまった。貴明に手を出されたらと、恐怖が頭を支配し、思考が停止していた。

「だからさ、1ヶ月だけ俺に抱かれてよ。そしたら、全部元通りなんだから。もちろん、彼氏君には内緒にしてあげるから。ね、環ちゃん」

「そんな、の……」

環は夢と現実の区別が付かなくなっていた。昨日までの貴明との幸せな日々が急に音を立てて崩れ去ってしまったのを、信じられなかった。獅王の攻めに抗えず、太ももを撫で回されているのを耐えるだけしかない自分。環は悪い夢だと、現実を受け入れられず、どこか夢うつつに話を聞く。しかし、獅王のゴツゴツとした硬い手が、一本一本が細長いピアノ演奏者のような指が、環の太ももをイヤらしく撫でてくる。瑞々しい環の太ももが、獅王の長く一本一本の指が意思を持ち、生きているように太ももを這ってくる気持ち悪い感触が……環の理性を溶かしていく。

「約束するからさ、キス写真だって、ちゃんと消したでしょ」

「あ、あぁ……」

「だからさ、いいでしょ環ちゃん」

「……私」

……ごめんなさい、タカ坊。

環は心の中で最愛の人に謝った。本当なら泣き出したかったが、隣にいる最低な男の前で泣くのはさらなる屈辱だと感じ、涙を堪えて、震える唇が耐え難い恥辱の日々の始まりを宣言した。

「本当に……1ヶ月耐えたら、私達の前から消えるんでしょうね……?」

「もちろん! 約束するよ。環ちゃんの身体を、たっぷり味あわせてくれたらね」

獅王の舐め回すような視線に、環の表情に影が落とした。環にとって、それを口にするのは、自らの命を絶つに等しい行為だった。貴明を守るためと言い聞かせながらも、彼を裏切る行為に他ならない。耐えたとしても、元には戻らないだろう。環は1ヶ月経った後、貴明の傍に居られるか、未来の自分を不安に思いながらも……それ以外の選択肢を選べない自分を恥じた。環は、獅王に負けたのだ。

「……なる、から。タカ坊を傷つけないで」

「何になるの? ちゃんと言ってくれなきゃ、分からないなぁ」

わざとらしく聞き返す獅王。環は葛藤を繰り返し、何度も息を吐き、ようやく声を振り絞った。

「あなたのセフレになるから。だから、タカ坊には手を出さないで……」

「いいよ。その代わり、環ちゃんは明日から俺のセフレね。今日はもう帰っていいけどさ、早速明日、呼ぶから来てね。場所はコレね。じゃあね、環ちゃん」

環のセフレ宣言を聞いて満足した獅王は、呼び出しの場所を書いたメモを置き、言うだけ言って足早に店の奥へと消えた。代金はサービスだよと去っていく獅王の姿を環は見なかった。ただ呆然とソファーに腰掛けたまま俯く。自分が取った行動が信じられず、貴明への最大の裏切りを受け入れた自分が許せない。

「う、う、うぅ……ごめんね。ごめんなさい、タカ坊。私、私……ひっ、ひっ」

耐えていたダムの決壊が崩れ、環はその場で泣きじゃくった。強さの仮面は剥がれ、そこに居たのは一人のか弱い女性に過ぎなかった。環はひとしきり泣いた後、涙の跡を拭いながら、貴明が待つアパートへと足を進めた。
作品の感想はこちらにおねがいします
24
© 2014 pncr このサイト上にある画像・文章の複製・転載はご遠慮ください。問い合わせ
since 2003 aoikobeya