02. 放課後のマンツーマンレッスン
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次の日、南が着替えていると、部室のドアが突然開いた
「きゃあっ!」
持っていたブラウスで、南はあわててブラジャーの胸を隠した。
そこには毒島の姿があった。
「コ、コーチ!?」
「まだ着替え中だったか。悪かったな」
「早く出ていってください」
「騒ぐな、浅倉。そのまえに渡したいものがある。今日はこいつを着て練習に出ろ」
「これは……?」
毒島が手にしていたのは、白に限りなく近い淡いピンク色をしたレオタードだった。袖のないタイプで肩から胸元にかけてストラップが伸びて、背中は肩甲骨が見えるぐらいに開いている。デザインとしてはバレエのレオタードに近い。南がいつも試合で着ていたレオタードは袖あるタイプだ。
「新しいレオタード? いつものがあるのに」
「あれはデザインが野暮ったいからな。大会ではこれを着てもらうぞ。あとサポーターをつけるなよ」
「サポーターを?」
南がいぶかしげに眉をひそめる。
通常、レオタードの下は水着のようなサポーターを着用している。
「余計な物があると技のキレが鈍る。本番を想定して、いまのうちから緊張感をもって練習するぞ」
「でも、それだと」
「俺の方針にいちゃもんでもあるのか」
「いえ……」
「わかったらぐずぐずするな。遅れたら下着姿で練習させるぞ」
有無を言わさない態度で告げると、毒島はドアをバタンと閉めて出ていった。
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「着替えました、コーチ」
南は淡いピンク色のレオタード姿で練習場に現れた。
不安げに視線を横にして、ちょうど股間を隠すように両手を体の前で重ねている。サポーターをしていないせいで心細いのだ。
その姿を毒島はスケベな目つきでねっとりと眺める。
「手がじゃまだぞ」
「ええ」
「本当にサポーターをつけてないか念のための確認だ」
しぶしぶ南は両手を体の横にした。
(やだな。このレオタード、サイズが小さいみたい)
ここに来るまで南はしきりにレオタードの食い込みを直していた。
毒島が用意したレオタードはワンサイズ小さかったのだ。おまけに生地がかなり薄い。ピッタリとフィットして、南の少女らしい体のラインを立体的に露わにしている。
やにわに毒島はその場にしゃがんだ。
目の前の箇所をじっくりとチェックする。
レオタードの股間には乙女の縦スジが刻まれていた。
毒島はヨダレが垂れそうになる。
「たしかに下に身につけてないようだな」
「顔が近いっ」
「コラ、勝手に動くな浅倉。新体操選手がこれぐらいで恥ずかしがってどうする」
「でも」
「昨日言った通り振り付けの確認をしてやろう。本番のつもりで演技してみろ」
「……はい」
南は納得のいってない顔をする。
リボンを片手にフロアの中央に立って準備をした。呼吸を落ち着かせる。
南と毒島以外、誰も居ない練習場--。
スピーカーからピアノの伴奏が流れてくると、流れるようにリボンが弧を描く。
演技中、南の頭から毒島の存在は完全に消えていた。蝶が羽ばたくように両手を広げてフロアを跳びはねる。
新体操の個人戦は、ボール・リボン・クラブ・フープ・ロープの手具を使って行われる。一つのミスが勝敗をわける競技だ。演技時間は1分30秒ほどだが、たて続けに行うとなるとかなりの体力と集中力を要する。
一連の演技を終える頃には、南は肩で息をしていた。
「なかなか見せる演技だったぞ。都の強化指定選手に選ばれただけはあるな」
「ありがとうございます」
南はセミロングの髪をふわりと揺らしながら、両手の指を使ってレオタードの食い込みをさりげなく直した。
前髪がわずかにかかった額ではキラキラとした塩の結晶のような汗が光る。
南は気づいていないが汗を吸ったレオタードは、霧吹きを吹き付けられたようにスケスケ状態になっていた。
(ムフフ……ポチッとした乳首も割れ目も丸見えだぞ。しっかりしてそうでガードが緩いな)
生まれたままの姿に近い南を目の前に毒島のジャージがもっこりと膨らむ。
「だが、全国レベルにはほど遠いな」
「南は全力で演技したのに」
「あれではインターハイの優勝は難しいだろう。それどころか都大会も危ないかもしれん」
「そうなんだ」
すこし気落ちした表情をする。
新体操選手としての浅倉南の強みは、その可憐な容姿とスタイル、所作の美しさ、この3点に集約される。逆に新体操歴はそれほど長くないので技の難易度と構成では他の選手にどうしても見劣りしてしまう。
達也の前では自信たっぷりに答えていた南だったが、ここのところ競技会での得点が伸び悩んでいた。それだけに毒島に現実を突きつけられた気がした。
「浅倉、ちょっと両手を後ろにして背すじを伸ばしてみろ」
「え?」
「いいからしてみろ」
「??」
南は毒島に言われたとおり胸を張った姿勢をした。。
淡いピンク色のレオタードにポチリと浮き上がった乳首、パイパンの割れ目。
運動の汗をまとい、ムンムンと少女の色気を放っている。
「新しいレオタードがよく似合っているな。なかなか色っぽい眺めだぞ」
「やだ……」
南は頬を赤らめた。
毒島の視線が自分の体を舐めるように眺めていることに気づいたのだ。
(レオタード透けてないかしら……それに、なんだかアソコがムズムズするわ)
思わず片手で前髪をかきあげて照れ隠しをする、南。
演技中、アソコが痺れるようなこれまでになかった不思議な感覚を感じていた。
実は毒島が用意したレオタードのクロッチ部分には、強力な媚薬クリームがたっぷり塗ってあったのだ。体を動かす事で直接割れ目に擦れ、知らず知らず南の奥深くにまで浸透していた。毒島がサポーターをつけるなと命令した真の目的だ。
「顔が赤いぞ、浅倉」
「え、ええと……どうしてだろ、南」
「もっと弾けるような笑顔で大きく股を広げてみたらどうだ?」
「え?」
「スケベな男どもが喜ぶぞ」
「は、はあ……」
「浅倉は色気が足りないな」
「そうかなあ」
「新体操選手にとって色気は大きな武器だぞ。新体操はスケベな男どもを勃起させてナンボの競技だからな」
「は、はい……」
とんでもない暴言の連続だ。
いつもなら食ってかかって反論しているところだが、南は股間の疼きが気になってそれどころではなかった。
それにだんだんと頭がぼーっとしてきた。
媚薬には南の思考を鈍らせる効果もあったのだ。
「ぶっ通しで疲れただろ。俺がマッサージしてやろう」
毒島が肩に手をかける。
「いいです、南はっ」
ハッとした南は体を動かして拒絶した。
「勘違いするなよ、浅倉。クールダウンが必要だろう」
「でも」
「新体操選手はアスリートだからな。ケガでもされたらこっちがたまらん」
「……」
「インターハイで優勝したくないのか? おとなしくマットに横になれ」
「……はい」
トーンの落ちた声で返事をした。
とりあえずコーチとの関係をこじらせるのは得策ではないと南は考えたのだ。
南は床に敷かれた体操マットにゆっくりと横になった。