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パワフルメモリアル
作者:しょうきち
公開
14. 部室に集合
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 きらめき高校、野球部部室。
 今日は土曜日。普段は水泳部に参加している清川望を交え初めての全体練習が行われる予定の日である。
 集合の予定時間よりも少し早めにやって来て、部室の扉を開けた望が出会ったのは、眼鏡の端を光らせながら、過去の試合のスコアブックとにらめっこする如月美緒であった。
「あれ? あなたは確か、図書委員の……、如月さん?」
「こんにちは、清川さん。今日から野球部のマネージャーをやらせてもらうことになりました、如月美緒と申します」
 手元で三つ編みを弄りながら、美緒が応えた。
「あら、そうなんだ。よろしくね、如月さん。ところで、他の皆はどうしたの?」
「沙希ちゃん達は、ロードワークに出てるところです。もうすぐ帰ってくると思うんだけど……」
 その時、ガチャリとドアが開き、虹野沙希が部室へと入ってきた。続いて高見公人、早乙女好雄の二人が姿を現した。
「望ちゃん、もう来てたのね」
「お疲れ様、三人とも。今日は私も参加させてもらうよ。よろしくね。それじゃ、アップしたらぼちぼち練習、始めようか?」
 今すぐにも動き出したそうにウズウズしている望を制し、公人が言った。
「ちょっと待ってくれ、清川さん。今日はもう少し集まる予定なんだ。もう暫く待っててくれるかい?」
「へ? いいけど、誰が来るの?」
 その時、野球部部室のドアからは、コンコンとノックする音が聞こえた。沙希が応えた。
「はーい、開いてるわよ」
「失礼するわね。昔の道具を引っ張り出してたら、時間がかかっちゃって」
 ガチャリと部室の扉を開けて中に入ってきたのは、赤みがかったロングヘアをヘアバンドで纏めた少女、藤崎詩織であった。左手にはピッチャーグローブ、右肩にはバットケースを抱えていた。
「よっ、詩織。時間通り来てくれたな。皆、紹介するよ。今日から野球部に来てくれることになった、俺と同じクラスの藤崎詩織だ」
「藤崎詩織です。野球部のみんな、今日からよろしくね。公人とはずっと同じチームで野球をしてきたのよ。ポジションは投手と捕手ができるわ」
 詩織の自己紹介に、目を爛々と輝かせて沙希が答えた。
「ウフフ、藤崎さん、よろしくね。これでうちのピッチャーは二人ね。あなたが来てくれて本当に助かるわ。高校野球は最早一人のエースで勝ち抜いてゆくのは不可能に近いからね」
 詩織の自己紹介が終わったところで、望が言った。
「さ、これで全員かい?  それじゃあそろそろ時間だし、練習開始といこうか」
 外に出ようとする望を、好雄が遮って言った。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 今日はもう一人来る予定なんだ。俺の同級生の、朝日奈っていうんだけど……」
「へ、まだ来るのかい? でも、もう練習開始時間だよ? 遅刻じゃん」
「アイツ、遅刻グセ酷いからなぁ……。悪いんだけど、もう暫く待っててくれないか?」
  今度は好雄を制して、沙希が言った。
「とは言え時間は時間よ。そろそろ動き出さないと始まらないわ。着替えないといけないから、男子二人はちょっと外で待ってて頂戴!」
 そのように言われ、好雄と公人は部室の外へ追い出された。入口がガチャリと閉められた。
  扉の向こうから、沙希の声が聞こえてきた。
「二人とも、悪いんだけど暫く待っててね。その朝日奈さんがもし来たら、部室に案内してあげてね。……言っておくけど、覗いちゃダメよ。よ・し・お・君」
「何で俺だけ!?」
「まあ、人徳の差かねぇ……」


  暫く待っていると公人と好雄の前に、おっとりとした三つ編みの少女が現れた。ゆっくりとしてはいるものの、どことなく日本舞踊を思わせる、滑るような足運びで突然現れたため、公人と好雄はぎょっとした。
 その少女はぽかんとした表情で、首を傾げて何か言いたそうに立ち尽くしていた。
 何度か口を開いては閉じる少女を見て、恐る恐る公人が話しかけた。
「えーと、ここは野球部の部室なんだけど、野球部に何か用かい?」
 少女は応えず、辺りをきょろきょろと見回していた。聞こえているなら返事くらいしてくれないかと好雄が言おうとした瞬間、少女は口を開いた。
「ここが野球部の部室なんですかぁ? 朝日奈さんに呼ばれて来たんですけどぉ……」
 恐ろしくスローモーな喋り方であった。しかも要領を得ない。言い終わる前に、今度は好雄が尋ねた。
「ん、朝日奈って言ったか?  夕子か? 朝日奈夕子か?」
「そうですよ。朝日奈夕子さんです。校門前で待ち合わせって聞いてたんですけどぉ、何時まで経っても来ないから一人で来ちゃいました」
「話が見えねーなぁ。肝心の夕子は何してんだ?」
 その時、好雄の携帯が鳴った。電話の主は夕子であった。
「ん、どうした夕子。お前、今日は野球部に来てくれるって言ってたじゃんかよ?」
「好雄? もう皆集まってる? ごめ~ん。ホラ、野球部って人足りてないって聞いてたから、野球に興味有るって子を誘って行こうとしてたんだけど、待ち合わせ場所に来なくってさ。その子、携帯も持ってないから迷ってるのかなって思って探して回ってたのよ」
「そういう事だったのか。なあ、その子って、おっとりした感じの両側三つ編みの子か?」
「そう、そうよ。ゆかり、そっちにいるの?」
 好雄の代わりに、三つ編みの少女が電話に割り込んで答えた。
「朝日奈さん。折角待っておりましたのに。何処にいらしておいでだったんですかあ?  もう部室まで来ておりますから、貴女もいらしてくださいな」
「今すぐ行くわっ! 待っていてっ!」
 
「ぜえっ、ぜえっ、校門の前で待っててって言ったでしょ!? ゆかり!」
 数分後、息を切らせて走って来た夕子は、着くなり非難の声を上げた。
「あら、朝日奈さんは校門前で待つと仰っていたではないですか。私、ちゃあんと門の前で待っておりましたのよ」
「門って何処の門よ?」
「あら、門と言ったら朝日奈さんがよく使っている、裏口にある門のことでしょう?」
「ちーがーうーっ! 確かによく使ってるけど、それは遅刻しそうな時! 普通だったら正門に決まってるでしょ!?」
「あら、普通にそう言ってくだされば良かったのに」
「あんたぁーっ!」
「おい、ちょっと待ってくれよ二人とも。漫才はそこまでだ」
「あら、よく私達が漫才コンビだってわかりましたねぇ。コンビ名は『ゆうことゆかり』と云いまして……」
「いいからちょっと待ってくれ!!」
 放っておくと何時までも続きそうな二人のやり取りを制し、好雄が割り込んだ。
「で、夕子。この子がその、野球部に興味を持ってくれてるって子か?」
「ええ、そうよ。古式ゆかりちゃんよ。テニス部に入ってるんだけど、以前からずっと野球にも興味を持ってたんだってさ。兼部はOKなんでしょ?」
「ああ。古式さん、それじゃあ宜しくな」
「お父様の会社の従業員さん達が、野球の事、特に甲子園になると目の色が変わった様に真剣になるんです。それで私も、昔から野球ってどんな競技かなあって、見たりやったりしてみたかったんです」
「ゆかりの実家は、不動産屋を経営しているのよ。さしずめ社長令嬢ってところかしらね、ゆかりは」
「あらぁ、そんな大袈裟なものでは御座いませんよ」
 理由は分からなかったが、ゆかりの話を聞いて、何となく公人は背筋に一筋の冷たいものを感じていた。
「よぉし、兎に角古式さんも野球部に入ってくれるって言うんなら大歓迎だ。早速虹野さん達に紹介するぜ」
「よしっ……、ああっ!」
 公人の静止は間に合わず、部室のドアを開けた瞬間、中から飛んできた金属バットや硬球の直撃を受けて、好雄は昏倒した。
「これがお約束……というものでしょうか?」
「いや、違うから……」

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