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A prostitute 's memorial
作者:しょうきち
公開
01. 望まぬ再会
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  厚生労働省によると、過労死基準となる月当たりの残業時間は80時間だそうである。
 これは、月に20日程度働く労働者にとっては毎日平均4時間程度の残業に相当している。仮に9時-5時の仕事であれば、毎日夜の9時まで残業をしているということになる。そこから帰路に就き、帰宅は10時といったところか。それ以上の残業は労働者の『健康で文化的な』生活に悪影響を及ぼすというのが、お上からのオタッシというわけだ。
「じゃあ、何で過労死ラインを越えてる俺の給料は手取り20もいかねぇんだよ。クソがぁッ!」
 高見公人は、駅のホームでひとりごちていた。蹴飛ばした小さな石ころが転がっていき、非常停止ベルのついた柱へぶつかり、線路へと落ちていった。
 東京都内にある私立きらめき高校を卒業、そして卒業式の日に、伝説の樹の下で幼い頃からの想い人である藤崎詩織と愛を確かめ合ってから後、7年の月日が経過していた。
 見事詩織への想いを実らせ、共に一流大学へと進学した公人であったが、 人生において発揮できるエネルギー総量を高校生活の中で使い果たしてしまったのであろうか。その先の人生は精彩を欠くものであったと云わざるを得ない。
 日本国における他の多くの学生もそうであるのだが、大学生は勉強をしない。それは、多大なストレスとなる大学受験から解放された反動であったり、何もかもが自由な大学という環境がそうさせていたり、『何を勉強してきたか』よりも『何々大学を出たか』、『サークルやバイトは何をしていたか』しか聞かれる事のない日本国内の主要な企業における人事採用システムがそうなっている事に問題点があり、それらを一緒くたにまとめて『自己責任』という美辞麗句で括っているのが、昔から変わらぬ日本という国であるためなのだが。
 公人も例に漏れず、一流大学へ入学できただけで満足してしまい、その後の4年間は遊び呆けて過ごしていた。高校で人生の一大目標を果たしてしまった反動か、それこそ他の一流大生よりも輪をかけて、である。
 幸いにも、要所要所で甲斐甲斐しく世話を焼く恋人の詩織の支援もあって辛うじて落第は免れていたのだが、不運なことに就職活動のタイミングと世界的な金融不況とが重なってしまっていた。
 大学ブランドさえあれば余裕で一流企業へ就職出来ると高をくくっていた、公人の甘い展望は無残にも打ち砕かれ、不景気による逆風の下、就職活動に難儀したあげく最終的に辛うじて受かった二流企業へと入社していた。
 一方の詩織は、抜かりなき人生設計のもとで、中央官庁へ主席で合格していた。
 誰が言ったか、人生における時の流れを実時間ではなく体感時間で見ていくと、なんと19歳ごろが人生全体における中間地点なのだという。根拠は定かではないが、少なくともそれ程までに人生全体のスパンにおける10代までの時間は濃密なものであり、そして大人になって以降の時間はあっという間に過ぎ去っていくという事実に異論を挟む人間は、あまり多くないのではないか。
 そして、これもまた良く言われる事であるが、就職してからの時の流れはそれまでの人生とは比べ物にならない程早く流れていく。
 公人が大学を卒業、就職してからの月日の流れもその例に漏れず、あっという間に3年間が経過していた。
 あの一流大学を出ておきながら……等と揶揄されるようなボンクラ社員ぶりを演じながらも、石の上にもなんとやら。公人もやっとぼちぼち仕事に慣れてきたかというところであった。
 職業、そして所得格差が開きつつ、そして互いの激務のために逢える時間が減ってはいたものの、詩織との交際は今尚続いていた。しかし、入省3年目を迎えた詩織は、更なるステップ・アップのために国費留学制度を利用し、英国はスタンフォード大学へと旅立っていた。
 そのためここ半年は詩織と顔を会わせていないし、時差もあって電話で話したのも既に一月以上前であった。メールは定期的に送っているが、忙しいのか返事もまばらであった。
(あいつ、向こうで別の男でも作ってんじゃないだろうな……)
 疲れのあまり脳がパンクしかかっていると、 そのような不穏な妄想が頭をよぎる。詩織がそのような不誠実な事をする女で無いことは百も承知であったが、 美人で聡明な詩織である。どこにいてもモテない訳がないのだ。
 大学の頃はサークルの先輩やゼミの教授から、就職してからは直属の上司である課長や局長から、更には業務上付き合いの生じる政治家などから幾度となく、セクハラ紛いの行為を受けそうになっており、公人はよくその相談に乗っていた。
 例え強大な地位や権力を持ち、雄としての力に溢れた相手からの誘いがあったとしても、公人との関係を保ち続けてきた詩織である。出会って20年超、交際を始めて7年間に渡る信頼関係が醸成されているのだ。
「とはいえ、こればっかりはどうにもなんねぇよなぁ……」
 下半身に目を落とす。俗に言う疲れマラという現象であった。元気の象徴と言われる事もあるが、人間とは不思議なもので、心身が安定している時よりも生命の危機に瀕した際の方が生命への欲求は強まり、下半身はより活発な活動を見せるものである。食べるに困らない先進国がどこも少子高齢化に瀕しているのに対し、生命の価値が著しく低い貧国である程出生率が高いという事実が、それを証明している。
 詩織と顔を合わせたのが半年前、まして手や顔などに触れたのはどれ程昔であろうか。なお、厳格な家庭で華よ蝶よと育てられた詩織の意向もあって、キスより先の肉体関係を結ぶことについては、結婚するまでお預けを喰らっていた。
 幾ばくかとはいえ先日夏のボーナスが出たところで、今は懐にそれなりの余裕がある。
 こんなとき公人の脳裏によぎるのは、むせかえるような淫靡な空気漂う、ネオンのギラめく歓楽街。即ち、風俗遊びであった。
 つい先程は詩織の浮気を心配していた公人であったのだが、自身は不誠実、ゲスの極みな事に女遊びで頭が一杯であった。
 高校時代は詩織だけではなく、数多くの女子とデートを繰り返し、浮名を流してきた公人である。理由は誰にも分からないが、基本的にはモテる男なのだ。しかし、賢しい詩織である。溜まっているからといって別の女などに手を出してしまっては、一発でバレて噂になってしまうことが、火を見るより明らかである。女子ネットワークを舐めてはいけない。それは、高校時代に得た人生最大の教訓であった。
 そこで社会人になり、ある程度自由に使える金も増えてきた頃から覚え始めた不適切な遊びが、この後腐れなき風俗通いであった。
「今日はどの店に行くか……。巨乳系かな。 JK系のイメクラもいいな……」
 いつもと帰宅ルートを変えて風俗街に降り立った公人は、今夜の遊びに入る店を物色していた。特に入る店も嬢も決めていない。普段から贔屓にしている常連の店といったものも無い。予約電話の通話履歴やポイントカード等から詩織に感づかれるリスクは万が一にも避けなければならないし、また、その日その時の一期一会を楽しむのが公人にとっての風俗遊びのポリシーであった。
 結果、とんでもない地雷嬢に当たる事も枚挙に暇がないのであったが。
「お兄さん、お兄さん。今日はどういった店をお探しで? キャバクラ、ヌキアリ、何でもありますよ」
「あー、間に合ってますんで」
「そんな事言わずに、さあさあ」
「ヘイヘイ。またね。……よし、今夜はこの店にするか」
 しつこく絡んでくる慇懃なキャッチを避けつつ、この日の公人が選んだのは、『巨乳JK 専門店 さらってMy heart』という店舗型ファッションヘルスであった。
 店名を型取った、チープな刺繍が施されたのれんを潜り、地下へと続く階段を下りて行く。 奥へ進んで行くと、壁面には、片手で目線を隠し、もう片方の手でセーラー服の裾をぐいとズリ上げて、乳房を露出した女子高生達のポラロイド写真が、一枚一枚処狭しと貼り付けられていた。言うまでもなく、この店に所属する風俗嬢たちである。どの嬢もチャーミングで、顔のレベルといいスタイルの良さといい、今時の下手なアイドルと比べても遜色ない。素晴らしい時代になったものである。
 不景気になると、風俗嬢のレベルが向上すると言われている。昔よりも女性一般の化粧技術が向上していることや、食生活の変化による平均バストサイズの上昇といった、景気に依らない要因もあるのだが、近年は更に、昔よりも高学歴で教養もあり気立てが良く、更には性的テクニックに関して研究熱心でサービス旺盛な風俗嬢の割合が、明らかに増えていた。
 失われた30年と呼ばれる、出口の見えない恒常化した不景気が蔓延する現代社会。不景気のため就職活動に失敗し、一時の糊口を凌ぐためと言いながらも、そのままずっぷりと風俗業界に染まっていくケースも多い。こうして競争過多となった風景業界は、嬢の平均レベル向上もさることながら、低価格化やサービスのインフレーションが進んでいく。コンビニ業界のようなものである。
 一説によると国内において風俗産業に従事する女性はおよそ30万人程なのだという。これは、若い成人女性において約20人に1人程度が風俗嬢であるということを意味している。
 一学年が8クラス、約320人であるきらめき高校であれば、クラスに1人、学年で8人程が風俗嬢として働いている計算になるのである!
  店舗や組織に所属せず個人売春や援助交際をしている女性、短期バイト感覚で一時働いてすぐに辞めた、僅かでも風俗経験のある女性を含めていくと、この数字はもっと増えるのかもしれない。
 尤も、これは机上の計算であって、ホームページに在籍多数を唄っておきながら実際にはそれはダミーで、誰を呼んでも写真と違う著しくレベルの低い嬢が派遣されてくる非常に悪質な『振替店』の存在、国籍を偽って日本で風俗産業に従事しているケースや、男はヤクザ、女は売春婦になる事が当たり前であるような、一般社会と大きく分断された、階層の著しく低い集団といった様々な要素がこの数字を激しく歪めているともみられ、実際のところは分からないが。
 階段を下りた先、薄暗いフロアに差し掛かると、人1人が辛うじて入れるような狭いスペースに作られたカウンターがあった。スーツに蝶ネクタイ、ポマードで頭を固めた小太りな中年男性が慇懃な態度で、公人に頭を下げた。この店の受付である。
「いらっしゃいませ。今日はご予約はございますかぁ?」
「いや、ないっす。今から入れる娘、いますか?」
「ハイ! 勿論です。ちなみにどんな娘をお探しで? 巨乳系、ロリ系、人妻系、色々揃えておりますね。ハイ、こちら、今から入れる娘のお写真」
 店員は、先程壁に貼ってあったものと同じポラロイド写真の内、数枚をカウンターに並べた。写真には更に女の子の名前、スリーサイズが書かれていた。
「今からですと……、この娘とこの娘がすぐ入れますね。こちらの娘は一時間待ちで」
 店員が差し出した写真の娘はそれぞれ『ミナコ』、『アカリ』、『バンビ』という名前だった。
「うーん。どの娘も確かに可愛いけれど、何かこう、そそられるモノがないんだよね。他にいい娘はいないの?」
「お客様、他の娘となりますとと少々お時間が……あ、少々お待ちください」
 店員の後ろでは電話が鳴っていた。公人の応対を中断し、店員は受話器を手に取った。
「ハイ、『さらってMy heart』です。ご予約ですか? あ、ハイ、ハイ、ああ、そうですか……。分かりました。残念ですが、またのご予約をお待ちしています」
 受話器を置いた店員は、再び公人に向き直って言った。
「お客様! 大ーっ変、ラッキーでございます。今しがた当店一番人気の女の子に急遽キャンセルが出て、一枠空きが出たところでございます。 大変人気の女の子につきまして、この機会を逃すと中々ご予約を取り辛い娘となっております。もし良かったら、この娘をお付けいたしますが、いかがなされますか?」
「じ、じゃあ、その娘で」
「ハイ、ありがとぉーございます。こちらがお写真になります」
 店員が提示した写真には、成程、人気の出そうな目鼻立ちの整った美女が写し出されていた。勢いに押され、つい熟慮せずに決めてしまったところは否めなかったが、一押しするだけの人気嬢であることに偽りはなさそうである。
 例によって目線は手で隠されていたが、名前は『ユウカ』。年齢は20、スリーサイズはB90(G) W60 H86。詩織と同程度の長さの、ややくすんだ赤みがかったロングヘアーだが、内側にハネたシャギーのかかった髪型で、息をするようにチンポを咥えてくれそうな男遊びに慣れ切った雰囲気が堪らなかった。
 番号札を手渡され、待合室へ案内された。
 室内では素人援交もののAVがモニターに写し出されていた。映像の中では、セーラー服をはだけさせた成人女性がアンアンと喘ぎながら、禿げ上がった頭の中年男性のぶよぶよした腹の下にに腰を沈め、白眼を剥いて両手でピース・サインを作っていた。
 昭和プロ野球の懐古話とイチ押し風俗情報が紙面の半分を占める、中高年向けゴシップ系週刊紙を読みつつ、ドキドキしながら待つこと十数分。遂に公人の持つ番号札が呼び出された。
 股間のポジションを修正しつつ、呼び出し元へ歩いていくと、公人を呼び出した店員がプレイルームへと続くカーテンを前に告げた。
「お客様。プレイの前に注意事項がございます。本番行為、女の子が嫌がる行為、しつこく連絡先を聞く行為、スカウト行為、盗撮、盗聴行為、これらの禁止事項の違反が発覚した場合、罰金100万円を請求いたします」
「ヒヒっ、わかってますよ」
「それでは、お楽しみ下さい。ユウカさん入りまーす!」
 勢い良くカーテンを開いたその目前には、写真そのままの美女が待ち構えていた。パネマジ(パネル・マジックの略。写真と実物に大きな隔たりがあること)は見られない。あえて違いを挙げるとするなら、先程見せられたポラロイド写真は匂い立つような淫靡さを醸し出していたが、実物はもっとノリの良さそうな底抜けな明るさが感じられた。
 着ている衣装は公人にとってよく見覚えのある、きらめき高校のセーラー服。いや、そう見えたのはむしろ一部の意匠だけで、上着の丈は臍部が完全に露出するほど短く、更に下乳が見えそうな程ローライズ化され、インナーは無く、暴力的なまでに強調された胸の立間を見せつける格好となっている。また、JKらしさの象徴であるプリーツスカートは、膝上40センチ程の、スカートの存在意義を疑うような短さの代物であった。普通に立っているだけなのに、スカートがたなびく度に、赤地のパンティがチラチラと顔を覗かせていた。
「こんにちはーっ。ユウカでーす。あっ……」
「ど、どうしたの?」
「い、いや、何でもないの。それじゃ、お部屋に行きましょ。暗いから階段、気をつけて」
 ユウカ嬢に手を引かれ、薄暗い廊下を進んでいく。先程の反応は何だったのだろうか。
 案内された先のプレイルームは、ピンクを基調とした壁面で、 部屋内は備え付けの電話にベッドと三畳程のスペース、そして奥にシャワー・ルームがあるだけの簡素な作りであった。ゼロ年代に流行ったようなユーロ・ビート調の音楽が、エンドレスにけたたましく鳴っていた。
 プレイルームの扉を閉めると、ユウカ嬢は公人の目をじっと見つめ、目をぱちくりとさせた。何か言いたそうに口をもごもごとさせる。
「な、何……?」
「ね、気付かない?」
「な、何を?」
「公人くん……でしょ? きらめき高校の」
「え、どうして!? ま、まさか!?」
「ほら、忘れちゃった? それとも化粧とか髪型で分かんないかな? あたし、夕子よ。朝日奈夕子。久しぶりね。卒業式以来かな?」
「あ、朝日奈さん!?」
 後ろ髪を持ち上げて、髪型を高校時代のようにして見せると、忘れかけていた記憶が甦る。髪型が当時と変わり、全体的に大分大人びてはいるものの、ユウカ嬢は紛れもなくきらめき高校時代の同級生、朝日奈夕子であった。図書室で一緒にカンニング・ペーパー作りにいそしんだ記憶が、つい昨日の事のように鮮やかに脳裏に映る。
「でも、こんなところで出会うなんて……、全然気付かなかった。随分大人びて……、年齢だって全然違ったのに」
 因みに、風俗業界では言うまでもなく、より若く、より胸が大きく、そして腰回りの細い嬢の方が好まれる傾向があるため、ある程度の年齢、そしてスリーサイズのサバ読みは常識的に行われている。ウエストサイズなどは特に顕著である。
 某大手下着メーカーによると、20代の日本人女性における平均スリーサイズは、バスト81.3センチ、ウエスト64.7センチ、ヒップ87.6センチなのだという。しかし、風俗嬢のプロフィールにおいては、ウエストサイズは大概58か59といった数字が並んでいることが多い。これは、58であれば大体60台の前半、59であれば、60台後半と思っておけばよいだろう。逆に57以下となるとウエストの細さをウリにした嬢であり、数値の正確さはともかくとして、実際にかなり腰回りが細い事が多い。そしてウエストサイズが60ともなれば、実際の値は70前後、60オーバーの数値ともなると、初めからそういった豊満性向の店で無い限りは70以上、下手をすれば80はあると思っていてよい。要は、人目見てわかる程のブーデーな女性が現れる事を覚悟しなくてはならない。
 しかし、この店においては誠実なことに、そういったサバ読みは行われていなかった。年齢は実年齢を掲載しているし、スリーサイズも、入店面接の際に実測した値を載せている。ただ、入店から何年たっても数値の更新が行われていないというだけである。その間、年齢もそうであるのだが、ブラジャーのカップもワンサイズ上になっていた。
「あ、あたしだってそうよ。びっくりしたわ~。それより公人くん、藤崎さんと付き合ってるんじゃなかったの? 彼女潔癖だから、きっとこういう遊び、許してくんないわよ?」
「あ、朝日奈さんこそ、どうしてこんな仕事を? 親にはなんて言ってるの?」
「…………」
「…………」
「そ、それじゃ折角だし、始めよっか。もうお金払ってるんでしょ? いやー、元同級生がお店に来るなんて、初めてよ。イケない事してるみたいで、ドキドキするね」
 気まずい沈黙の後、口火を切ったように喋り始めたユウカ嬢改め朝日奈夕子は、てきぱきと仕事の準備に取り掛かった。
 受話器を手に取り、受付にプレイ開始の連絡をした後、ベッド上に置かれたタイマーをセットする。そして、手際よく公人の服を脱がせていった。型崩れしないよう、ジャケットを丁寧にハンガーに掛ける。時折鼻の頭や唇の先がコツンと当たる程顔を近づけ、妖艶な笑みで微笑む。そして、淀みなくワイシャツのボタンを外していく。ネクタイやワイシャツも皺にならないよう、型を整えてハンガーで吊るす。その手慣れた様は、これまでに夕子が数多くの男性を相手にしてきたという事実を、嫌が応にも自覚させた。
 上半身を脱がし終え、目を閉じて深いキスをした。互いの唇を通じて出来た唾液のアーチを拭き取りながら、夕子が言った。
「んっ……。こうして見ると、公人クンもすっかりオトナって感じになったんだね。今は会社員? スーツ、似合ってるよ」
「朝日奈さんも、随分変わっ……あ、いや、綺麗になったよね。お世辞じゃなくて、本当だよ」
「ウフフ、ありがとね。ま、色々あったのよ。イロイロね」
 夕子は公人の後ろに回り、胸を押し付けながらベルトの留め金を外した。公人の背中では高校時代にはまだ無かった、暴力的なまでの巨大な肉鞠が、グニュリと潰れていた。他の部分は高校時代から変わらぬスタイルを維持しながらも、バストサイズだけが当時より数段アップしており、パツンパツンのセーラー服からは隠しきれない美巨乳が溢れそうになっていた。
 そして、スラックスのフックに手をかけると共に、股間への愛撫が始まっていた。
「う……、ああ……、朝日奈さん……」
「ふぅ……はぁ……ん。公人クン、随分溜めてきたみたいね。段々熱くなってきてるの、わかるわよ」
 夕子は公人の首筋に、野性動物が縄張りを示すマーキングを施すような、痕が残る程の鋭く強いキスを繰り返した。トランクスを勢い良く、ぐいとずり下げると、出口を求めて今にも暴れ狂いそうな赤黒い猛獣が、ピンと頭を覗かせた。
「うわぁ……、おっきい……」
 夕子は思わず、まじまじと公人の逸物を見つめた。数多くの男性器を扱いてきた夕子にとってさえも、かなり上位に位置する存在感を放つ代物であった。
「ねぇ、コッチは公人くんが脱がせてよ。これ、レプリカで本物よりも簡単に脱げるから」
「う、うん」
 夕子の言葉に従い、正面に向き直る。
 肉棒の屹立した全裸の格好で、きらめき高校制服(あまり原型を止めていない改造品だが)を着た彼女と向き合うのは、校内で不純異性交遊をしているような、そこはかとない気恥ずかしさがあった。
 公人は息を呑むと、セーラー服に手を伸ばした。まず、リボンタイに手をかける。軽く引っ張ると、シュルリと外れ床に落ちていった。次に中央を辛うじて繋ぎ止めるホックを外すと、そのままプルンとした生の乳房が露になった。やや色素の強めな乳首が、重力に逆らってツンと上を向いていた。公人はそれを見て、他所の家の飼い猫に見つめられているような感覚を覚えた。
「ほら、折角だから。好きなだけ触ってよ」
 夕子は公人の右手を引き込み、胸の谷間へと導いた。そして、腕を左右の乳房で挟み込んだ。ニュルニュルとした弾力のあるスライムに周囲を囲まれたような感触を受け、腕から力が抜けていく。
「フフ……気持ちいい? こーゆーこと、高校生の頃じゃ出来なかったもんね。それとも、藤崎さんと昔の制服引っ張り出してヤってたりするの? いや、マジメなコだし、そういう事はしてくんないかな?」
 まさか7年も付き合っていながら結婚はおろか肉体関係にすら至っていないなどは言えず、公人はばつが悪い気分になった。
 残った手でスカートのホックを外すと、スカートはストンと落ちた。夕子の身に付けているものは深紅のパンティ一枚のみとなった。
「朝日奈さん……」
「いーよ。最後も脱がせちゃって……。は、あンッ!」
 不意にパンティの中への侵入を受け、夕子は思わず喘いだ。公人の中指が茂みをかき分け、その先へと伸びていた。 茂みの奥は大火事か、洪水か。続いて一気に引きずり下ろしたパンティからは、ツゥ……と切なげな糸が垂れていた。
「シャワー、行こ? キレイにして、いっぱい気持ちイイこと、してあげる」
 夕子はチロリと舌を出して、自らの唇を舐め回して見せた。その様を見た公人は生唾を飲み込んだ。
 一般的な風俗店においては本格的に粘膜を擦り合わせる前に、シャワーを浴びる事が必須となっている。まず、客は嬢が手渡したイソジンで口をゆすぎ、口内を消毒する。そして、嬢のサポートの下、念入りに手足や股間をボディソープで洗っていくのだ。
 これは、まず第一に性病を始めとした感染症予防のために行われる。
 ここで教育が行き届いている優良店や、サービス精神の旺盛な嬢であれば、イソジンは事務的な手渡しではなく、口移しで口中へ注ぎ込んだりする。洗い方にしても、陰毛をたわしに見立てて全身を洗う『たわし洗い』、客の指を一本ずつ膣内へ購入する『壺洗い』といった高度なテクニックを駆使して全身を隈無く洗ったりもする。前戯以前のシャワーと侮るなかれ。ここには大きな差が出るのだ。
 風俗産業が供給過多となっている現代、やる気のない嬢や自らのルックスに胡座をかいている嬢は、シャワーなど適当でいいやと芋でも洗うかのような事務的なプレイに終始する。こういったサービスに愛情の感じられない嬢を裏返す(同じ客から2度目以降の指名を受けること)客はあまりおらず、結果として多くの指名を受ける人気嬢との差がついていき、自然と淘汰されていくこととなる。
 女は愛嬌とはよくいったものである。
 そして、朝日奈夕子の場合であるが、こういった行為にあまり抵抗が無いことの賜物か、それとも元々才能があったためか、高校時代あれほど勉強嫌いであった事がウソのように、こういった性的テクニックの数々を高いレベルで習得していた。
 夕子が得意としていたのは、泡立てたボディソープをたっぷりと尻にまぶし、客を背後に立たせ、背後に屹立している逸物を太股と股間で挟み込み、そのまま尻を八の字にグリングリンと縦横無尽にくねらせる事により性感を高めてゆくと共に、股の間から顔をもたげた亀頭を、細指にたっぷりとローションジェルを纏わせて尿道の中まで念入りに洗っていく洗い方であった。
 もちろん公人に対しても同様の洗い方を施していたのだが、今日の夕子の奉仕は普段よりも熱を帯びていた。それは、夕子自身も忘れかけていた想いが一因であったのかもしれない。
「公人くん……、あたしの事も洗ってェ……」
 夕子は公人の両手にたっぷりとボディソープの泡を出すと、自らの胸や女性器へと導いた。
「うわぁ……朝日奈さんのアソコ、凄い熱くなってる……。それに、ネトネトして、キュゥンと閉まって……凄い締め付けだ。乳首だってビンビンだ」
「公人クン……、ンムッ」
 夕子は首だけを公人に向け、チュルリと唇を吸った。舌が相手の唾液を求めて伸びてゆき、舌と舌が、互いを求めて締縄のように絡み付く。
「ア、アムゥン……」
 シャワールームの向こうでは、相も変わらずユーロ・ビートがジャカジャカと鳴っていたが、公人と夕子、二人の耳には互いの息遣い、そしてビチャビチャと下品に唾液を交換する音だけが聞こえていた。
 夕子の舌は、口中や唇だけではなく、頬や鎖骨、首筋や乳首といった様々な部位を舐め回していく。やがて、公人の耳たぶにチロチロと舌を這わせなから、夕子が囁いた。
「ハァ、ハァ……。そろそろ、ベッド行こっか」
 べっとりと付着したボディソープやローションを洗い流し、身体を拭いてシャワールームを出た後、タオル一枚を腰に巻き、公人はベッドに腰掛けていた。
 やがて夕子もベッドへとやって来た。先程の制服を改めて着直して。いや、胸元のホックは全開に、乳房をブルンと露出させ、スカートの下にはパンティを履かず、匂い立つような女性器が露になっていた。
 夕子はベッドの上、公人の横に腰掛けた。
「さ、プロの技、見せてあ・げ・る」
  公人の腰からタオルを剥ぎ取ると、痛い程に屹立する怒張をそっと掴み、夕子は公人を面前に見据えて跨がった。ピンクサロン等でよく見られる、対面座位素股スタイルである。
 夕子は俗にはちみつ容器と呼ばれる、 ローションの入った耐熱ボトルをベッド脇の用具棚から取り出すと、自身の鎖骨から乳房の辺りにツゥ……と流し掛けた。
 止めどなく流れていくローション・ジェルは、重力に従い、夕子の肉体を伝わってヌルリと溢れ落ちて行く。メロンのように張り出した乳房の先端からは、二筋の滝のようにローションが垂れていった。一方で、胸の谷間を通じて下へと流れていった分は下乳から肋骨、へそ回りを伝わり、スカートの隙間を潜り抜け、遮る布の無い性器を淫猥に湿らせててゆく。
「フフ……ちょっと、ひんやりするね」
 自身の肢体の前面に、程よくローションを塗り満たした事を確認した夕子は、 公人の首筋に両腕を回し、密着感を強めてゆく。
「ん……」
 夕子は目を閉じ、公人に唇を重ねた。長い睫毛がツンと触れる。
 夕子の言葉通り、ローションが肌に触れる感触は少し冷たいものがあったが、情熱を帯びた二人の肉体が擦れ合う度に熱されていく。その温度は人肌並みか、またはそれ以上か……。
 ローションによって滑り良く、舌で、指で、互いに様々な箇所を貪り合う二つの肉体は、ジュポジュポと淫猥な音を立て、 一つに溶け合っていく。互いの性器を際限なく擦り付け合う中、挿入はしていないとはいえ、公人の脳髄には既にセックス以上の快楽が降りかかっていた。
「朝日奈さん……」
 公人は眼前に広がる乳房の山を、両手でムンズと掴んだ。手のひらに収まりきらない肉が、指の隙間から溢れた。柘榴色の乳首をグニュリとつまんでねぶり回すと、夕子は「アン……公人くん……」と、荒く切なげな声を上げた。
「もっと気持ちイイこと、してあげるね」
 夕子は、爆発しそうな程に血液が集められている剛直を右手で擦り続けながら、今度は公人の脚を開かせ、正面に跪いた。そして、公人の逸物をうっとりと眺めていたかと思うと、微塵も躊躇いを見せずに一息に口中に含んでいった。
「うあぁーっ! あ、朝日奈さん……」
「ろう? ひもひひーひゃな?(どう? 気持ちいいかな?)」
 夕子は更に、乳房の付け根の辺りから肉を寄せ集め、公人の剛直を根本から包み込んでいった。そして、亀頭の裏筋の辺りをレロンレロンと舐め上げてゆく。
 尿道に舌先を差し入れ、ヌチャヌチャと分泌される我慢汁を味わったり、ひょっとこのように口をすぼめてズゾゾゾと下品な音を出して吸い上げたりしていく度に、公人の性感は限界へと導かれていった。
「うああ朝日奈さん、も、もう出るっ!」
「ひひほ、ひふれほらひひゃっへ(いいよ、何時でも出しちゃって)」
 ストロークを上げ、フィニッシュに向けて猛然とピッチを速めていくと、公人は経験したことが無い程の激烈な快美感を感じた。口端からは力が抜け、涎が垂れ落ちていった。夕子の頭部に優しく沿えていた両腕に、自身の意思とは無関係に過剰な力が入る。脊椎がビクビクッと痙攣し、熱く、ネバつく白濁が夕子の口内に発射された。
「ん、んんーッ!」
 その量、濃さは共に夕子の想像以上であった。一息で吸い取り切れず、一部をティッシュに吐き出した後、残りを改めて吸い出すと共に、ウェットティッシュで丁寧に拭き取った。
 諸説あるが、一度の射精による消費カロリーは、100m走を全力疾走した時に匹敵するのだという。魂まで抜けるような激しい射精を終え、激しくビートを刻む心臓と、酸素を取り込む肺が通常通りの動きを取り戻すまで、数分の時を要した。
 意識がはっきりとしてきた頃、仰向けでベッドに寝転ぶ公人の横では、精液を始末し終えた夕子が添い寝しながら顔を覗き込んでいた。
「ウフ、どう? 気持ちよかった?」
「あ……無茶苦茶……、気持ち……よかった……」
「ウフフ、良かった。……あ、でもコッチはまだ随分元気そうだね」
 夕子が目線を下げると、赤黒い怒張は尚も天を突くが如く直立していた。一考した後、先端を掌で弄びながら、夕子は公人の耳元でそっと囁いた。
「ね、 エッチ……、しちゃおっか?」
「え!?  でも、禁止だって……」
「大丈夫。言わなきゃバレないって」
  先程釘を刺されたばかりである。室内の端には、『本番は罰金100万円』との張り紙があった。これは殆どがただの脅し文句であり、一般的にあまり守ろうとする客はおらず、嬢もそれを承知のためにあまり抵抗なく挿入を許してしまっているケースも多いが、嫌がる嬢に強要したりと、特に悪質な客であれば店に訴えられた挙げ句、筋モノのおじさんが出張ることもある。全ては密室で起きているため、実態は誰にもわからないのだが。
「時々、超したくなっちゃうの……。お願い、誰にも云わないから」
 そう言うと夕子は、脚を開き、公人を引き寄せて陰茎を女陰の入口まで導いた。あと数センチ、ほんの少し体重をかけるとなんの抵抗もなく、性器と性器が結合するであろう、そんな距離で見つめ合う。
(これは事故だ。事故なんだ)
 ほんの少し逡巡があったが、結局夕子の誘いに身を任せ、公人は少しずつ、夕子の中心に肉杭を突き立てていった。『超~』という言葉遣いに、校則を破って教師の説教を受ける夕子の姿を始めとした、高校時代の郷愁が甦る。そして、そういったノスタルジィを汚れた大人の肉欲で破壊し尽くす行為に、倒錯した興奮を覚えていた。
「ああン……! 公人……くん。今だけは、名前で……!」
「朝日奈さん……、夕子……、夕子!」
 ゆっくりと、肉棒はズブズブと体内へと侵入を深めてゆく。ローションだけではない、肉体から出る分泌液が、結合を滑らかに助けていた。
 その時である。
 突如として「ジリリリリリリ!」と、けたたましくベルが鳴った。
「えっ……? え……!?」
 公人が呆気に取られていると、夕子はそそくさと片付けの準備を始めていた。
「ざーんねん。時間みたいね」
「そんなあ……」
「ま、しゃーないわね。一応言っとくけど、今日はこれでアガリなんで、延長は出来ないからね。ホラ、この部屋、私が掃除しなくちゃなんないんだから。服着て、服」
 公人は不承不承、帰り支度を始めた。
 シャワーを浴び、再びスーツに着終え、公人はプレイ・ルームを後にして出口へと向かっていた。その傍らに、夕子が見送りに立っていた。
「朝、あ……、いや、『ユウカ』さん。今日はありがとね」
「ウフフ、キミこそ今日は来てくれて、ありがとね」
「今度また遊びに来るから、次の出勤日、教えてよ。今日の続き、もう一度……」
 これまで持っていた風俗遊びのポリシーをかなぐり捨て、そこまで言いかけた時、夕子の人差し指が公人の唇を塞いでいた。
「ダ・メ・よ。あなたには立派な彼女がいるんだもの。もうこんなトコに来て、泣かせちゃダメよ」
「でも……」
「うーん、あ、そうだ。コレ、あげるわね」
 夕子は懐からカードを取り出すと、手早く書き込みを加え、公人に手渡した。そこには、店のロゴや、『ユウカ』のスリーサイズ、電話番号やe-mail アドレスといったプロフィール内容が記載されていた。
「何コレ?」
「このお店の名刺よ。一応、渡すことになってるの。それじゃあね」
 多くの風俗店では、客との別れ際に嬢がメッセージ等を添えて名刺を差し出すサービスが行われている。嬢のプライベート・アドレスやLINEアカウントが記載されている事も多いが、基本的にこれらは店に管理された営業用のものである。そのため、しつこく店外デートを誘ったり、根掘り葉掘りプライベートを聞き出そうとしてくるような痛客は、それを自覚した方がよい。
「あさ……、んんっ!」
 尚も未練がましく食い下がろうとする公人の唇を、夕子の唇が塞いだ。切なげに潤んだ瞳が、名残惜しくも別れを促していた 。
「……そうだね。今日はありがとう」
 こうして公人は、大きな満足と、何処かほろ苦い気持ちを胸に『巨乳JK 専門店 さらってMy heart』を後にしたのだった。
 しかし、後に気付くことになるのであった。 先程貰った名刺の裏面には、『tel/e-mail :知ってるでしょ? 高校の頃と一緒だから。今度は店外で逢おうね(ハートマーク)』と書かれていることに。
 
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