蒼い小部屋2020 発売中! DMM / DLsite
ソウルボイス
作者:ブルー
公開
11. 電話
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 学校から帰って数学の課題をしていると、机に置いてあったスマホが鳴った。
 アプリに木地本の名前が表示された。
 窓の外では斜めに日が差し、葉をすべて散らし終えた銀杏の木が骨のような枝を揺らしていた。
<<おい、大変だぞ。
>>ははーん。風間さんとケンカでもしたか。
<<バカヤロウ。のんきなことをいってる場合か。これを見ろ。
 送られてきた写真を見ると、制服姿の森下さんがヤリチに肩を抱かれて、デザインマンション風のビルに入る姿が写っていた。
 入り口の看板には『HOTEL SULATA』と書いてある。駅裏にあるラブホテルだ。
<<さっきたまたま見かけたんだ。
>>他人のそら似だろ。
<<現実を見ろ。
>>森下さんはいまごろ部活のはずだ。
<<練習は休みだったぞ。
>>だいたいどうしてヤリチ先輩と。
<<知らん。ただ森下の奴、最近様子が変だったからな。
>>ありえない。
<<森下と毎日連絡取っているのか?
 そういわれて俺は返信に困った。
 最近、森下さんからのメッセージは目に見えて減っていた。理由は、女子バスケ部の練習が忙しいからだと思っていた。
<<一度本人とよく話してみろよ。あとはお前らしだいだ。
 木地本の声がずっと遠くでしゃべっているように聞こえた。
 俺はショックで頭がよく回らなかった。
 まるでタチの悪いドッキリに引っかかってるみたいな気分だ。
 きっとこれは何かの間違いだと思った。本来はありえない世界が俺の居る世界と交差して蜃気楼を見せているような。
 森下さんが浮気をするわけがない。森下さんはとても真面目で一途な女の子だ。

 トークアプリで連絡しようとしてやめた。
 文字だとどうしても言葉の機微がぼやけてしまう。ウソをつかれても見破る自信がない。
 なにより森下さんの声が聞きたいと思った。
 電話の連絡先に登録してある森下さんの名前をタップするのにかなり精神を削った。
 まるで警告音のように呼び出し音が鳴る。
 なかなか繋がる気配がなかった。
 森下さんが電話に出たのは何分かしてからだった。
「小笠原くん……?」
 ひさしぶりに森下さんの声を聞いた気がした。
 旅費をためるために節約していたので電話を使う事自体ほとんどなかった。
「いまどこ?」と、なるべく平常心でたずねた。
 緊張で喉が乾いていた。
「……どうしたの、いきなり」
 ほんのささいな違和感を感じる。
 森下さんの声が動揺しているような気がした。
 俺は慎重に次の言葉を探した。
「森下さんがいまどこにいるか知りたくて」
「えっと……友達の家よ」
「今日は練習じゃなかったの?」
「あ、うん……バレー部が体育館を使用して休みになったの」
「友達って誰?」
「ともみだけど」
「あのさ、本当に友達の家なの?」
「そうよ--……ちょ、ちょっと、いまはやめてください……!!」
 急に森下さんがヒソヒソ声を発した。
 まるで俺以外の誰かに話しかけているみたいだ。スマホのマイク部分を手で塞いでいるのだろう。よく聞き取れないがかなり焦っている様子だ。
「どうしたの、森下さん?? そこに誰かいるの?」
「ちょっと先輩がふざけてて……ン……あっ……んんっ」
「もしかしてヤリチ先輩と一緒なの?」
「お願いだから……いまはやめてください……ヒィィ……」
「森下さん? どうしたの、森下さん??」
「あっ、ああっ……先輩がともみの家に遊びにっ……あン……」
「様子が変だよ。ヤリチ先輩になにかされてるの?」
 心臓がバクバクと音を立てる。現実がどんどん悪い方向へ落下している気がした。
 森下さんは何かを必死に我慢しているようだった。
 スマホの向こう側からは、ゆったりとしたリズムで手の平を叩くような音が聞こえてきた。つい最近も似たような音を聞いた記憶がある。
「ちがうのよ……先輩がいきなり耳の後ろに息を吹きかけて……電話のじゃまを」
「息を吹きかけて??」
「はぁ……っ……ごめんなさい……と、とめてくださいっ……彼と話してるのっ」
 とても熱っぽい森下さんの声だ。抗議というより懇願している。
 俺の中で、森下さんがヤリチ先輩と二人きりでいる事実が確信に変わる。頭が真っ白になってうまく言葉が見つからない。
 手の平を叩くような音のリズムが早くなった。
 それにあわせてスマホ越しに聞こえる森下さんの息づかいもだんだん荒くなった。
「はぁ……ああっ……んんーーー」
「森下さん、大丈夫? 体調でも悪いの?」
「ち、ちがうの……わたしのスマホを取ろうとして……んん……先輩っ、いまはゆるしてぇ……電話が終わってからゆっくり」
「森下さん??」
 スマホに何度も森下さんの名前を呼んだ。
「マヌケな彼氏に本当のことを教えてやれよ」
 電話口から男の声がした。
 ヤリチ先輩だ。チャラついた顔が浮かぶ。
「森下はとっくに俺の肉オナホだ。毎日チンポをハメられて大事なところはガバガバだってな!」
「ち、ちがいます……勝手なことをいわないで……はぁ、ぁぁ……」
「よくいうぜ、さっきまでマンズリしながらノリノリでチンポをしゃぶってたくせによ」
「あ、あれはっ、先輩の命令でっ……ダメ、わたしのスマホを返してぇ……ああん」
「いいかげんにしろ、クソ野郎!」と俺はスマホに叫んだ。
 森下さんが侮辱されるのを黙って聞いていられなかった。
「負け犬がイキんな」
「うるさい」
「見せてやるよ、森下が肉便器だっていう証拠をな」
「森下さんにすこしでも触れたらぶっ殺してやる」
「おー、こわいこわい」
 まるでハイエナのように笑っている。
 トークアプリに新しいメッセージが届いた。送られてきた画像には、ラブホテルの鏡越しに制服姿の森下さんが先輩の膝にまたがり、背面座位で繋がっている姿があった。
 黒と白のセーラー服、黄色いリボンをしたポニーテールの髪型。ベッドの上や床には、学生鞄と下着の他に、たくさんの丸まったティッシュや卑猥な玩具が無造作に転がっている。スカートがめくれた中心部分には、太いペニスが根元まで深々と突き刺さっていた。
 とっさに顔を隠そうとしたのだろう、火照った横顔を向けている。手首を後ろに掴まれて、その背後でニヤついたヤリチンがスマホをこちらにかざしている。
「へへへっ。そういうわけでよろしく」
「いやあっ……見ないでぇ、小笠原くんっ」
「おい、忘れたのか。マンコ突きながら俺の肉オナホになれっつったら、メス顔でなりますって返事したよな」
「ああっ……ひどいわ……先輩っ、もうゆるしてぇ」
「一ついいことを教えてやるよ。ラブホではじめてやる時、森下は自分の指でマンコを開いておねだりしたぜ。物欲しそうな視線でこっちを見つめてな」
「ウソよっ! 全部作り話だわっ……っっ……はぁ、んっ」
 スマホから森下さんのすすり泣きの声が聞こえる。
 俺はなにが本当でなにがウソかまったくわからない。
 洪水のような感情が頭の中でぐるぐるぐるぐる回っている。
 乾いた音のリズムが変わった。1回1回の間が開いて、高い位置からつきたてのお餅を床に叩き落とすように重みのある音だ。ギリギリまで反動をつけて思い切りぶつけている。
 だんだんと森下さんの声がかすれた喘ぎ声になってきた。「ひっー、ぃぃっ……はぁぁ」と本能がむき出しになる。
 俺はこれは悪い夢だと思った。
 頼むからもうやめてくれ、これ以上森下さんを壊さないでくれ。あの日学校の屋上で告白したことも、森下さんが泣きながら俺の腕に飛び込んできてくれたことも、転校したのもすべて夢であってほしいと願った。
 遠くから森下さんを眺めるのが現実で、森下さんと付き合っていたの妄想かもしれない。そのほうが1億倍マシだ。
「たすけてぇ……ひぐっ……ううう--」
「オラオラオラオラッ!!」
「もうだめぇ……やばいいっ……いいのぉ」
「へへへっ、スイッチが入ってきたみたいだな」
「先輩が……わたしの奥にぃ……はぁ……あーーんん」
「ハアハア、いつもみたいにヨガって腰をふれよ」
「んああーー、はああ、いいっっーー!!」
 森下さんの吹っ切ったような喘ぎ声にベッドのきしむ音が重なる。
「彼氏に聞かれて興奮したか?」
「ん、くっ……もうだめぇ……おねがい、動いてぇ……アアッ!」
「おい、聞こえるか。あの森下がビッチみたいにケツを振ってるぞ。よっぽど俺のチンポがお気に入りらしい。後でとっておきの動画を送ってやるから楽しみにしてろよ」

 そこで通話が切れた。
 俺はスマホを耳に当てたまま固まっていた。
 その後、電話が繋がることは二度となかった。
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