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茜 Lost Virgin
作者:ブルー
公開
01. 森下茜
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 潮の香りを含んだ風が小さなつむじを描いて通り過ぎた。青い葉がザワザワと揺れ、小高い丘の校舎を柔らかな陽射しが包み込む。
 グラウンドでは2年生の男女による体力測定が行われていた。男子は体操シャツにハーフパンツ姿で、女子は袖口と襟元が紺色になった白い体操シャツ、横に白線が2本入ったかぎりなく黒に近い紺色のブルマーを着用している。石灰の粉で描かれたトラックではクラス単位での1500メートルのタイムトライアルが行われ、フェンス近くのバックストレートでは火薬の音と共に50メートル走のタイムが測定されていた。
 砂場では2列に並んだ生徒たちが雑談をしながら走り幅跳びの列を作り、鉄棒に10人ほどの男子がぶら下がり歯を食いしばって懸垂をしている。校庭はまるで体操服に着替えた高校生だけによる仮装パーティ会場のようで、いつもは口うるさい教師たちも今日ばかりは記録を取ることにかかり切りで、ピストルや笛の音に、男子たちがふざけて騒ぐ声や、仲の良いグループごとにわかれて集まった女子による明るいおしゃべりの声が楽しく交錯していた。
 青葉台高校は比較的歴史が浅いということをのぞけばごく普通の高校だ。敷地は遠くに海の見える小高い丘にあり、登校するには桜坂と呼ばれる桜並木のダラダラとした坂道を登らなければならない。4月には坂の登り口から校門までが鮮やかな桜の花びらで敷きつめられる。電車でもバスでも通学可能という立地条件に加え自由な校風ということもあり、父兄はもちろん受験生からの人気も高い。とくに女子生徒が着るオーソドックスなセーラー服は、近隣女子中学生の憧れの的であり、白線の入った黒い襟の上着と赤いスカーフ、黒色のプリーツスカートというこの制服を着たくて辛い高校受験に耐え、青葉台高校進学を目指すのだ。
「おい、次だぜ」とフェンスを背にあぐらをかいて休んでいた男子の1人が隣の生徒を肘で突付いた。それを合図に一斉に視線が注がれる。長い黒髪のポニーテールに黄色いリボン、スラリとしなやかな体つき。50メートル走のスタートラインには、左肘の辺りを右手で押さえ体を横に伸ばすように準備運動をしている1人の女子生徒の姿があった。

「なんか気合入ってるじゃん。目がめちゃマジなんですけど」
「狙ってんのかな、タイム。女子って何秒ぐらいだっけ? 50メートル。てか、チョー脚ナゲー。ハワイのワイキキビーチみたいだぜ」
「かー、お前さんさっそくですか。あんま見てると女子に睨まれんぜ」
「とか、言いつつお前だって鑑賞モードだろうが」
「なにをおっしゃる。体力測定なんてかったるくてやってられるかってんだ。しかし、いい仕事してますな、あの腰のくびれ具合。ブルマなんかクイッと盛り上がっててマジ芸術品だよな。見てて周りの女子とかマジでかわいそうになる。まさに月とスッポンだぜ。あれで男がいないなんてウソみたいだよな」
「ウソってか奇跡だろ。きっと幼い頃から心に決めた男がいるんだよ、姫には。その人と再会するまでは操を誓いますってね。だから絶対不可侵なわけ」
「なんかの文学小説みたいだな。永遠の処女だ」
「そそ、それだよな。やんちゃ姫らしいだろ。かなり体育会系よりだけどさ。俺たちなんて口をきいてもらえるだけラッキーだぜ。学校違ってたらただの他人だし」
 居並んだ男子の間から自然とため息がもれた。

 茜は他校にまでその名を知られた美少女だ。放課後になると校門前には、茜見たさに近隣の男子高生や大学生がゾロゾロと集まってくる。美少女と言ってもよくある線の細いタイプではない。むしろその逆でスラリと上背があり骨格がしっかりとしていて、健康的な肉質の白い肌をスポーツ少女らしい厚みとボリュームで身に纏っている。
 リボンでくくられたややかな黒髪(茜が歩くと、まるで周囲にシャンプーの香りをふりまくように心地よく左右に揺れる)。切れ長な眉を隠す程度に伸ばされたフワリとした前髪に、キリリとした目鼻立ちの横顔は、どことなく森の奥深くに住む雌鹿を連想させる。ツルンとした細めの卵型の輪郭に男子ならば見つめられただけでドキッとするような深く澄んだ黒い瞳が印象的だ。
 全体的に早熟で大人びているが、笑うと小粒に並んだ白い歯が口元にこぼれ無邪気なあどけなさが見てとれる。元気で弾けるように明るく、いつもクラスの中心にあって、それだけに男子からの人気は絶大な物があるが本人はそのことをまったく気にしていない。からかい混じりに青葉台高校のやんちゃ姫とかスットコとか撃墜王などと呼ばれることがある。それは茜が悪戯好きでときどき周囲の人間をあっと驚かせるような大胆な行動をすることがあるからだ。(茜にはいくつかの伝説があって、その中のひとつに女子バスケ部のメンバーに嫌がらせをしていた上級生男子の頭にダンクの真似をしてわざとバスケットボールを叩きつけたという実話があった。このことは幻の茜ダンクと呼ばれている)
 いまも膝に両手を着いて、軽く屈伸運動をしただけで男子生徒だけでなく男性教師の視線までも釘付けにしている。まるでグラビア雑誌の表紙からそのまま飛び出してきたような瑞々しさとメリハリに満ち溢れた凹凸のライン、いまでは絶滅寸前となった濃紺のブルマーという禁断の組み合わせ。これでは飢えた男子でなくともそちらを見るなというのが無理というものだ。本人の意思とは別に際立つスタイルの良さがまるで男子校に1人だけで転校してきた美少女のように視線を集めてしまう。
 それは体育の授業などで女子が1列に整列するとよく分かる。クラスメイトと並んでいると茜1人だけ腰の位置が頭ひとつは上にあるのだ。均整の取れた長い手足に内側から輝くような白い肌。体操シャツの胸部はソフトボールを半分に割って並べたようにふっくらと押し上げられ、くびれた腰元から続くヒップラインは、まず張り出した腰骨によってブルマーの生地が横に引き伸ばされ、そこに硬めの筋肉によって引き締まった尻肉が無理矢理に近い厚みで詰め込まれグンと盛り上がってカーブしている。背中から見ると腰が細いだけによけいに大きく見えて、顔立ちや仕草さとのギャップもあってまさに悩殺モノのスタイルだ。
 縦横無尽に注がれる好奇な視線、茜はそんなことなど気にもしていないといった様子で手首と足首の関節をブラブラとさせて入念にほぐす。小学生3年生の頃にはランドセルを背負っていなければ中学生として間違えられるほどの可憐さで周囲の注目を集めてきた茜にとって、他人の視線を浴びることはもう日常の一部であり慣れっこでもあった。手を下に伸ばして前屈をした。肉厚のヒップラインにピッチリとフィットしたブルマーが無防備に突き出され、下を向いた体操シャツの胸がフルフルと揺れる。
 真っ直ぐ立つと両手の指をさりげなくヒップにまわしてブルマーの食い込みを直した。パチンとゴム音をさせる。風に黄色いリボンが揺れ、ポニーテールがサラリサラリとなびいた。気合い十分に50メートル先のゴール地点を見つめる。桜色の唇を固く引き結んだ。

「よーい」という掛け声で足をスタートブロックに乗せてしゃがむ。地面に両手を着いてクラウチングスタイルをとる。膝を伸ばしてブルマーの腰をクッと持ち上げる。空気が固まったような静寂が辺りを包み込んだ。
「ヤベー。エロすぎ! あれは想像しちゃうっしょ」と男子生徒の1人がハーフパンツの股間を押さえて言った。「あんなエロイ体してるけど100%処女だぜ。ああ、マジでやんちゃ姫とヤレたら死んでもいいかも」
「バーカ。ポール立てんなよ。でもさ、どんな男だろうな、ハートを射止める男って。いつか男ができるわけだろ、さすがに」
「わりと普通がタイプだったりして」
「それか年上の大学生だな。女たらしの遊び人の」
「女たらしの遊び人? それはないだろ。真面目だぜ、姫」
「甘いな。そういうのが逆に引っかかり易いんだよ。明るいしノリいいし、コンパとかで盛り上がってその場の勢いで口説かれてさ、案外あっさりかもよ。テクニックあるからな、大学生は。車とか1人暮らしとか、そういうのスゲーヤリ手のヤツっているだろ」
 鋭く火薬の音が鳴った。茜は前に倒れるような前傾姿勢でダダッと飛び出す。スタートの数歩で隣を走るクラスメイトを置き去りにし、長いポニーテールを真っ直ぐになびかせグングンと加速する。トップスピードでゴールを駆け抜けると、そのままの勢いにUターンしてストップウォッチを持った記録係のところにタイムを聞きに行った。体操シャツがめくれるのも気にせず大きく飛び跳ねて喜ぶ。駆け寄ってきた友人たちに向って満面の笑みでピースサインをした。
「やったわ。自己ベスト更新よ!」と明るい声で言った。もう片方の手でもピースサインをすると「ダブルピース!」と言った。
「すごいじゃない。あんたのタイム、いまのところ女子でトップよ」
「狙ってたの。1年のタイムは絶対更新しようって」
「やるわねー。陸上部でもやってけるんじゃない」
「まあね、これでも毎日鍛えてますから」と茜は両手を腰に当てて鼻先をわざとらしくツンと上向かせた。
「もう。ダメよ、調子にのせたら。この子すぐに調子にのっちゃうんだから」と三つ編みをしたクラスメイトが言った。
 すぐに人気者の茜を中心とする女子グループが形成されて、お互いの記録用紙を見せ合いながらキャアキャアと黄色い声を出して雑談がはじまった。
「そういえばさ、さっきすごい見られてたわよ、男子に」と背の低い女子が言った。
「そうそう、見てた見てた。男子ってば食い入るような目つきでまるで透視するみたいに集中してたんだから。ああいうのを凝視するって言うのね。気をつけないとダメよ。男子ってほんとスケベなんだから。とくに茜は可愛いし人気もあるんだから隠し撮りとかされてるわよ、きっと」
「やだ。もうー。良美までヘンなこと言わないで。そんなこと言われたら意識しちゃうでしょ。それにわたしなんて別に人気なんてないわよ。人気なら良美のほうがあるんじゃない」と茜は隣に立つ岡崎良美に手をヒラヒラさせて笑ってみせた。
 良美は茜と同じ女子バスケ部に所属するクラスメイトで、ツンとした顔立ちとショートカットがよく似合うボーイッシュな女子生徒だ。一見すると対照的だがクラスでも茜の次に人気がある。もし茜のいないクラスなら一番可愛い女子生徒として持て囃されていただろう。ただクラスもそうだが学校全体の人気は茜1人に集中していて、他の女子生徒が割って入れる余地はほとんどなかった。良美はサラサラとした前髪を少女マンガに出てくる美少年のように揺らしニッコリと微笑んでいた。
「ハイハイ。知らぬはご本人さまのみね。男子の欲望そのままみたいな体してるのに勿体ないわよね、ホント」と後ろから茜に抱きついた。「それっ!」と言って体操シャツの膨らみを下から包むようにモミモミと揉みはじめた。
「ちょっと、ふざけないで。みんな見るでしょ」と茜はくすぐったさに上体を折り曲げ、足下をクネクネさせる。相手が気心の知れた友人であり同性であり、こういう類いの悪ふざけは更衣室や部室などではよくあることなので別段不快に思ったりいやらしく感じたりすることはなかった。身をくねらせてポニーテールを揺らしてくすぐったく笑っているだけだ。他の女子たちも、またいつものじゃれ合いがはじまったというふうに微笑ましく眺めていた。
「この前もサッカー部のキャプテンにコクられたらしいじゃない。どうよ。正直に白状なさい」
「やだ。どこから聞いたの?」
「そういうの噂にならないわけがないでしょ」
「別になにもないわよ。普通におしゃべりしてそれだけよ」と茜はその場で何度も足踏みをしたり、体を前のめりに揺らしたり「もうダメ。くすぐったい」と目じりに涙を浮かべ笑う。良美はそれを追いかけるように優しいタッチで胸をモミモミと触って、耳元にフーフーと息を吹きかける。
「でたでた。茜必殺のただおしゃべりしてただけよ攻撃。みんなそれで撃沈なのよね。高校だけでいったい何十人振ってきたのよ、あんた」
「そんな大げさよ。本当におしゃべりしただけよ」
「でも10人や20人じゃないでしょ。2年になってからだけだって相当な数のはずだし」
「ノーコメント」
「もう、そういうのは口が堅いのね」
「あたり前じゃない」
「フフフ。茜らしいわね。あらやだ。また大きくなった? ねね、身体測定いくつだった? 他は相変わらずスリムだし太腿とかお尻とかは逆にムチムチしててエロイって言うか、あんたいかにも処女ですってエッチとか無関心そうな顔してて体だけは大人だからブルマとかすごくエッチよ。こんな体してたら男子に見られて当然よね」
「なによ、やぶから棒に」
「ほらほら、いまも男子たちこっち見てる。目に焼きつけてるわよ。家に帰ってオナニーのズリネタに使うつもりなのよ。人気の茜にブルマをはかせてエッチなポーズとかさせてフェラチオとかさせるのよ。ねえ、フェラチオって知ってるわよね? あんたってほんと人気あるんだから。とくにね、茜みたいに制服とかブルマが似合うとね、30代とか40代ぐらいのおじさんにすごく人気があるの。
 どうしてだか分かる? それはね、茜みたいなまだなにも知らない初心な女子高生にね、キス教えたりとか胸を揉んだりとか、その挙句にセックスしたりとかして自分の思うように汚して調教してみたいって思うからよ。ウソだと思うならそういうサイト覗いてみるか街で暇そうに立っててみなさい。すぐに声をかけられるわよ。茜なら3万円とか5万円とかお小遣いをくれるわよ、これ本当よ」
 茜は苦笑いを隠せない。他の友人が「バカなこと言ってんじゃないの、良美。ヘンな遊びを教えたりしたらダメよ。みんなと違ってピュアなんだから、茜は」とチャチャを入れた。
「ハーイ」
 冗談めかして舌先をちょこっと出してクスリと笑った。手を放して悪ふざけをやめる。「そうよね。茜はお子さまだもんね」とからかうように言った。
 茜は体操シャツを引っ張り直すと、頬を膨らませて「別にわたしお子さまじゃないもん」と唇を尖らせた。
「ダメダメ、そうやってムキになったって。茜がお子さまなのはみんな認めてるもの。だってさ、高校生にもなってまだ男子と付き合ったことないなんてどう見ても小学生レベルでしょ。ううん、今日日の小学生なんてもっと進んでるわよ。知ってる? 小学生のうちに初エッチ済ませちゃう子だっているのよ」
「それはごく一部の話でしょ。それにたまたまいいなって思う男子がいないだけで、わたしはわたしなりに理由だってあるし」
「ほらね。それがお子さまだって言ってるのよ」
「もうっ。からかわないでちょうだい。わたしだってみんなと同じ高校生よ」
「じゃあさ」
 良美は人差し指で茜の体操シャツの膨らみを指さした。「そこまで言うならさ、今日暇? すごく会わせたい人がいるの、茜に」とニッコリ笑う。
「今日?? 遅くならないなら大丈夫だけど」
「じゃ、決まりね!」
「ねえ、その人ってうちの学校の人?」
「それは会ってみてのお楽しみって感じ? 良かった。どうしても紹介したかったの。カッコよくてね、すごく素敵な人よ。茜もきっと気に入ると思うな。このわたしが保証してあげる」
 意味深に唇を軽く曲げて笑う。茜は手首を腰に当てて「まったくもー。いつも強引なんだから」と苦笑していた。
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