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理想の代償
作者:ブルー
公開
01. ティファ・ロックハート
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 時代が時代だからしかたない――。
 古ぼけたテーブルに座る客がやるせなさそうにグラスを傾ける。ティファはその男のすすけた背中をため息混じりに眺めていた。
 プレジデント神羅を頂点とする巨大企業神羅カンパニー。その神羅が支配する中枢都市ミッドガル。富が力に直結する世界で、神羅は中世時代のような圧制を民衆に強いていた。この裏ぶれたスラムである七番街に住む人々に自由はない。あるのは酸素を吸う権利と、吐き出す二酸化炭素と同時に愚痴を吐き捨てる権利ぐらいだ。先日も、公然と神羅を批判した者が黒いスーツを着た男たちに両脇を抱えられ連行されていった。
 恐らく二度と戻ってくることはないだろう。正確には同じ顔をした男は戻ってくるが、頭の中の思想は連行される前までと180度転換している。大量の薬物投与を用いた芸術的なまでの洗脳。次に男の口から出る言葉は、神羅を賞賛する陳腐な形容詞に変っているはずだ。
 練達の域に達したハイデッカー率いる治安維持部門。これが暴力と恐怖だけによる圧制ならば、非暴力不服従の抵抗も成功を成し得ただろう。だが、実際に行われた運動の結果は、ほろ苦いと評するにはあまりにも苦味がきつかった。
 有識者らによるハンガーストライキを主とした不服従の抵抗運動は、その何れもが鼻紙をゴミ箱に投げ捨てるような結果に帰結した。アクリル板よりも澄んだ意思と、セラミック合金よりも固い信念を持って失職した抵抗者達は、変わりに真綿で首を締め付けられるような飢えを与えられ、住む場所さえも失った。マスメディアの収入の大部分が神羅による広告収入によって支えられている。圧倒的な富による支配機構は、本来は高潔であるはずのジャーナリズムの根幹まで侵食していたのだ。忌むべき権力と報道の黒い結託、ニュースキャスターに表立って神羅を批判する者はいない。だからティファはテレビを見ない。
 ニブルヘイムでの事件はティファの運命を大きく変えた。いい意味ではなく悪い意味で。それまで神羅の支配体制に疑問は抱いても、反抗する意思のなかったティファの心に自由を勝ち取る思想と復讐にも似た悲壮な決意を植えつけたのだ。法に則った暴力に対抗するすべでもある格闘技を学び、ここ七番街で反神羅組織のアバランチにも身を投じた。ただ十七歳のティファにとって現実の風はそれほど暖かいものではなかった。
 義腕のリーダー・バレット=ウォーレスが組織する、このアバランチ。良く言って試行錯誤の革命運動グループ、悪く言えば金欠のテロリスト集団。一応の安定期を迎えた神羅カンパニーの支配体制を根底から覆そうとする運動には、尊い理想と裏腹に現実的な資金調達が必要だった。グループの維持活動において、それこそセブンスヘブンの売り上げとは桁違いの金額がいる。情報、火気、通信、人脈、養成。全てを賄うには強力なパトロンの存在が不可欠だ。そしてパトロンは当然のように見返りを求めてくる。ギブアンドテイクは経済の基本なのだから。


 セブンスヘブンという名のくたびれた食堂兼酒場でウエイトレスをしているティファ=ロックハートは、まだ化粧をする必要もない少女だ。ウエイトレスといっても実際には皿洗いから調理までティファが一人で切り盛りしている。こしのある長くて黒い髪に、雲ひとつない夜空にも似た瞳、淡いバラの花びらを重ねたような唇。しなやかな肉体は俊敏なクアールのようで、パンチを繰り出せば生半可なゴロツキ程度は一発でノックアウトできる。タイトな黒のミニスカートから伸びる脚はなめらかに長く、強靭なジャンプ力と殺人的な破壊力を秘めている。ティファの格闘技センスは一流だと、高名な格闘家である師匠も太鼓判を押してくれた。それも実戦を積み重ねることによって飛躍的に伸びるタイプだと。修行はまさに血反吐を吐くほど厳しかったが、それ以来1日たりとも鍛錬を怠っていない。暇を見つけてはチンピラとのストリートファイトで腕を磨いている。おかげで日々レベルアップを感じられる。白のタンクトップにサスペンダー、それに男物のゴツイベルトと黒のタイトミニスカート、皮のナックルグローブを身につけている。その服装が一番動き易く、いつでもどんな場所でも戦えるからだ。
 一つだけ困ったことがあった。それはティファの胸が普通の女性よりも大きいことだった。それもかなり。他は年頃の少女と変らない細さなのに、胸だけがタンクトップを重量感たっぷりに押し上げてたわわに実っている。歩くと水風船のように上下に弾む。とても成人前の少女の物とは思えない迫力がある。そのあまりの存在感ゆえに、街を歩いているとジロジロと眺める男たちがあとを絶たない。ティファのあどけなさの残る顔立ちと胸のサイズのギャップを見比べているのだ。何よりティファはスラムに咲いた一輪の花のように健気で美しかった。それは身なりはストリート形で垢抜けていないが、年齢をべつにすればモデルか神羅で美人秘書をしててもおかしくない容姿だ。
 店にはティファ目当てでくる客もたくさんいた。というか、店にはティファ以外にとりたてて看板メニューもなかった。戸の打ち立ては悪く窓はガタガタで、歩けば床も軋む。テーブルや椅子などもゴミ捨て場から拾ってきたのが大半だ。とくに美味い酒を出すわけでもない。やってくる男たちはとにかく安い酒が飲めることと、可憐なティファが忙しそうに働いている姿を眺めるのが目的なのだ。よしんば若いティファと親しくなりたいと願う者もいた。それでどうにかこうにかセブンスヘブンの経営は成り立っていた。本人は気にしてもいないが、ティファは七番街では知らぬ者などいない人気の美少女だった。そして、そういう意味では好色なパトロンの目にとまるのはごく自然な成り行きだった。
 それまでもティファに言い寄ってくる男は数多くいた。地位や身なりは多種多様を極め、下はセブンスヘブンの客から上は神羅の上層幹部まで、あらゆる身分の男がたくさんのプレゼントと歯の浮くような口説き文句を並べ立てて、ティファとティファの肉体に興味を示した。
 ティファはその全てを愛想笑いで軽く退けていた。まず打倒神羅という目的があったし、ニルブヘイムの事件以降姿を消した幼馴染の少年の事が気がかりになっていたのだ。それにティファは格闘技に打ち込むあまり、恋愛にはそれほど興味が持てないでいた。まだ若いし、そのうちステキな男性と出会えればいいな程度にしか考えていなかった。だが、そのパトロンの申し出はそれまでといささかおもむきが異なっていた。

 開店準備中のことだ。スラムに似つかわしくない白い手袋をした運転手つきの高級車が店の前に停車した。バレットがいない時間を見計らい、パトロンが直接乗り込んできたのだ。男気で知られるバレットを介せばギミックアームで撃ち抜かれないまでも頭部をしたたかに殴りつけられるぐらいは想像できたのだろう。形だけの挨拶も早々に見るからに一癖ありそうな男が説明したのは、アバランチの苦しい台所状況だった。
 男は床のモップ掛けをしていたティファに対して、アバランチがどれほど経済的苦境にあるのかをテーブルの木目でも数えるように説明した。内容は驚くべきものだった。債務超過どころか、明日の運転資金もままならないありさまで、月末を迎えれば店の土地と建物はおろか、マリンの住んでいる借家も追い出されるという逼迫したものだった。つなぎ融資があればどうにか生き延びれるかもしれないが、そのつなぎ融資をしてくれる当てもすでにない。まさにこれを自転車操業というなら自転車とは車輪なしで走るのかと聞き返したくなるような状況だ。
 ただただ絶句しかない。ティファは目を丸くして耳を疑わずにはいられなかった。最近やたらとバレットの浅黒い巨体がコソコソと隠れて走り回っていたのがやっと理解できていた。同時に自分が、組織の運営においてまったく頼りにされていない事を思い知らされた。自立した少女という自負のあるティファにとって、憤りとともに寂しさを感じずにはいられない。アバランチのメンバーとしてもっと自分を頼ってくれてもいいのに。
 そうしてパトロンはこう言ったのだ、もしティファが自分の女になれば、今までの借金はチャラにするどころかさらにこれまで以上の資金援助を約束しようと。
 ティファは口を重く閉ざして悩んでいた。それはつまり、ティファがパトロンに抱かれて、純潔を捧げるということを意味していたからだ。それぐらいはティファにだってわかる。
 ティファの沈痛な横顔やそのスタイルの良さを至近距離でじっくりと眺めていたパトロンの男は、さっそくタイトミニの後ろに手を置いていた。ムッチリとした若さあふれるヒップラインをなぞるように舌なめずりをして触る。はじめからティファが答えを選びようのないことを知っているのだ。ためらいもなくスカートをめくって少女の答えをうながすべく股間を弄る。ショーツの横から指を入れて直接アソコにタッチした。そのまま怪しくこする。
「んあ、だめ」
 ティファはか細い声をもらして、モップを持ったままその場でモジモジした。弱々しい態度でパトロンの手をどうにか払おうとする。
 だが、パトロンはあきらめようとしない。それどころかティファの深刻な顔つきに興奮したのか、後ろに回りこんでショーツを半分ずり下げて堂々とアソコに触り続けた。どうしても答えを口にできないティファの耳元に荒い鼻息を吹きかける。
「どうする? ワシはどちらでも構わんよ。ただアバランチがなくなったら居場所がなくなって困るだろ。仲間だって路頭に迷うことになる」
「んあ、そ、それは……」
「さあ、早くしろ。気の早い客が来るかもしれん」
 男の手がティファのショーツを膝の高さまで下ろす。サスペンダーを横にずらして、片手では掴み切れないタンクトップの胸を右手で持ち上げた。いやらしくモミモミする。
「わ、わかりました……それで資金を都合してもらえるのなら」
 ティファは悔しさをにじませた顔でモップの柄を握る。神羅への復讐に燃える少女にとって黙ってうなずく以外の返事などありはしなかった。
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