蒼い小部屋2020 発売中! DMM / DLsite
HyperFree
作者:ブルー
公開
01. キャンパスライフ
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 初夏の日差しが柔らかに包み込むキャンパスに、この春から晴れて女子大生になった藤崎詩織の姿はあった。
 白のブラウスに紺色のフレアスカート。シックなミュールを履いて颯爽と歩いている。化粧気のないあどけない清純な顔立ち。テレビ画面をにぎわすアイドルのように美しい。髪型もヘアバンドも以前のままで、まだ高校生の雰囲気が抜けきれていない。詩織の胸にはきらめき高校での思い出が形をとどめてしっかりと息づいている。セーラー服を着て通っていたのが昨日のことのように感じられる。ときどき朝になると制服に着替えそうになる。
 そんな入学したての清楚で美しい可憐な存在を他の学生達が見逃すはずもなく、詩織がキャンパスに現れると決まって多くの男子学生たちが挨拶がてらに周囲に集まった。あまりに人数が多いので講義室に向うのにも一苦労してしまう。
 そんなふうにしていつものように多くの男子たちに囲まれて講義室に向っていると、一人の女性が詩織に近づいてきた。フィリピーナのように彫りの深い顔立ちに脱色した茶色の髪、マスカラもバッチリの化粧をして、渋谷を徘徊する少女のファッションにも似たスリーブパーカーとレギンスの服装をしていた。ウェーブした髪をマニキュアの指でいじって、人懐っこく話しかける。
「今日も大勢のファンを引き連れてるわね」
 大きな唇を横に広げて微笑む。詩織が大学生になって知り合った吉川真美だった。
「こんにちは。べつに引き連れてるだなんて。みんな同じ講義みたいなの」
「あははは。なるほどなるほど。藤崎さんの顔を出す講義は、みんなの出席率が高いわけだ。さすが元きらめき高校のスーパーヒロイン、凡人とはレベルが違うわ。いまは誰もが認めるミスキャンパスだし。入学して半年もたってないのにすごいじゃない。自慢だよ、自慢。あれ、いつもの彼はいないんだ」
 吉川真美はわざとらしく詩織の周囲を見回した。詩織の隣にいつもいる幼なじみの彼氏がいないのを確認したのだ。
 第一志望だった一流大学に進学が決まった詩織は、高校卒業の日にきらめき高校に伝わる伝説の樹の下で告白し、無事恋人同士として結ばれたのだ。いまはお互いの両親公認のもと都内のマンションに同棲している。大学だけでなく同じテニスサークルに所属して、誰に隠すでもなく大学内でも堂々付き合っている。2人で暮らす生活は衝突もあってなにかと大変だが、それでも詩織は心から幼なじみのことを愛していた。もちろん大切にしていた初めても捧げた。勇気を振り絞って告白して良かったと心の底から思っている。
「ううん、私なんてぜんぜん。彼はいまサークルの先輩に呼ばれてて。たぶん予選会の打ち合わせかしら。彼に用事? もうすぐ戻ってくると思うけど」
「あ、違う違う。あたしは藤崎さんに用があるの」
 真美はブランド物のバッグから一枚のチケットを取り出した。指で摘んでヒラヒラさせる。
「今日さ、夕方からなんだけどあたしの参加してるサークルのイベントでドリキャンってのがあるんだよね。んでね、良かったら来てくんない? 場所はね、有名なクラブなんだ」
「ドリキャン?」
 耳慣れない単語に詩織はこくびをかしげる。詩織が首をかしげる赤い髪がさらさらと揺れ、周りに春先のバラ園を思わす香りを漂わせていた。澄んだつぶらな瞳をしばたかせる。
「ドリキャンってのはね、ドリームキャンパスの略なんだけどさ、聞いたことない? んまあーさ、ダンスイベントみたいなもんかな。はやりのダンスナンバーで騒いでしゃべって踊りまくり。有名大学の学生だけを集めて新しい友達とか出会いを作るの。一言で言えば受験戦争を勝ち抜いた勝ち組だけの親睦会みたいなもんかな。人脈を広げる」
 吉川はにこやかに笑う。詩織は片手を頬に当てて考え、少ししてキューティクルなストレートの髪を左右に揺らした。
「ごめんなさい。そいうのはちょっと」と丁寧に断った。
「アハハハ。やだやだ、なに勘違いしてんの。そりゃあさ、詩織は彼氏いるしー、出会いとか興味ないだろうけど。でもでも、出会いは出会いでしょ? 友達とか知り合いが増えて損ないじゃん。いつまでも高校生みたいに学校と大学の往復じゃつまんないでしょ。大学生は大学生同士でパーッと騒いで派手に踊ってハジけようって。他大学にも詩織の名前を売るチャンスじゃん。せっかく大学入ったのに遊ばないなんて人生の損失だと思わない。すぐ就職活動だよ、詩織は大学院行くのか知らないけど。たまには息抜きもしなさいよ。えーっと彼氏と一緒にテニスサークルに入ってるんだっけ?」
「ええ、いちおう」
「そういうのってさ、やろうと思えば大学を卒業してからでも出来るでしょ?」
「そうかもしれないわね。どこかのテニスクラブとかで」
「でしょでしょ。でもドリキャンは違うの。今のうちだけ。女子大生ってチヤホヤされているうちだけ。社会人なったら男たちなんてあっさりしたもんよ。みんな女子高生や女子大生になびくでしょ、あいつらバカだし。キャンパスライフをもっと積極的に動いてエンジョイしないと損だってぜったい。すごっく楽しいイベントなんだから」
「あのね。お誘いは嬉しいけど、でもそういう所って着て行く洋服とかどういうのがいいのかわからないし、それにいきなりでしょ……」
「あははは。オッケーオッケー。それぐらいあたしに任せてよ。あたしの貸してあげる。飛び切りハイなヤツをさ。それで問題ないでしょ」
 詩織の手を取り、強引に握手した。チケットを押し付ける。
 詩織は悩んでいた。正直あまり気が進まないのだ。だが、大学で出来たばかりの友人の誘いを無下に断るわけにもいかない。服を貸してくれるとまで言われては断る言葉の探すのも難しい。
「そうね。そこまで誘ってくれるなら」
 気乗りのしない声でしぶしぶ承諾する。
「やったね。サンキュッ、詩織! そうだ、詩織って呼ぶね、堅苦しいのあんま得意じゃないんだ。あたしのことは真美って呼んでよ。そっちのがずっと友達っぽいでしょ。あ、言っとくけどドタキャンとかなしだかんね」
 真美が大げさに手を振りながら去って行く。
 詩織の手元にはハイパーフリー主催と印刷された銀色のチケットが残されていた。
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