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援助交際 森下茜
作者:ブルー
公開
01. 放課後
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 それは偶然だった。
 放課後、親友の木地本とゲームセンターで遊んだ帰り、家路への道を歩く雅人は視界の端に黒髪鮮やかなポニーテールに黄色いリボンの後ろ姿――麗しい森下茜――を認めたのだ。
 三歩下がってカッターシャツの襟を正す。自分が汗臭くないか確かめた。
 真夏の向日葵にも例えられる爛漫とした容姿に、やんちゃなまでに悪戯好きな明るい性格――茜は学校中の人気者で、特に男子からは、上級生、下級生の垣根を問わず絶大な人気を集める美少女なのだ。周囲には四六時中茜を中心とした女子グループがあるか、そうでなければ非公認ファンクラブの男子達が取り囲んでいる。
 平凡な一男子生徒でしかない雅人などが半径2メートル以内に接近するチャンスといえば、川土手に咲くタンポポの綿毛が秋風に飛ばされ、常夏のハワイにまで辿り着くような偶然に頼る他ない。
 茜は下校途中なのだろう。雅人は小さくガッツポーズした。茜はいつもこの先にある駅を通学に利用する。今は仲の良い女子グループもファンクラブの男子も居ないようだ。
 七夕を過ぎたばかりの日は長く辺りはまだ十分に明るい。人影が疎らなのは帰宅ラッシュ前なのと、この通りが駅へ向かうメインストリートから横に折れた路地なせいもある。憧れの美少女は雑居ビルに設置された自動販売機の陰に隠れるようにして立っていた。
(よーし、いつもいつもビックリさせられてるだけだと思ったら大間違いだからな。今日はこっちが驚かせてやる番だ)
 そう悪戯心に火をつけ、忍び足に近づいた雅人は唐突に曲がり角に身を潜めた。茜の隣に立つスーツ姿の男を見つけたからだ。
 こっそり覗き込む。隣の男はどこにでもいるようなサラリーマン風の男だった。グレーのスーツに黄色いネクタイ。茜の様子から父親ではないようだが、それぐらいの年齢ではあるだろう。男の肌は浅黒く風貌からは若さを感じられなかった。
(帰ってる途中にナンパされたのかな……森下さん美人だから)
 雅人はそう考えた。清純な顔立ちに大人びたスタイル。外見と内面の両方において文句のつけようもない茜は他校の生徒にまで知られた美少女であり、校門前などに待ち伏せするファンも少なくない。中には大学生や社会人の姿もある。
 茜とその男は何か話しているように見えた――というよりは一方的に男が話しかけている。会話の内容は聞こえないがやはりナンパなのだろうか。熱心に話しかける男は馴れ馴れしく茜の肩に手をかけていた。セーラー服の襟から肩先にかけてを何度も優しくさすりながら、返事を急かすように茜の顔を覗きこんでいる。
(あのヤロー……森下さんの肩に)
 雅人はムッとした。軽い嫉妬の炎をメラッと燃やす。高嶺の女子である茜はその細やかな指先の手を胸元に添え、学校紹介用パンフレットの表紙を飾る模範的な女子生徒のように屹立し俯いていた。学校指定の黒いローファーに引き締まった脹脛の中ほどまでを覆う白いソックス、可愛らしい膝頭。その上には、清純な茜の容姿にはそぐわないぐらい長くムッチリとした太腿があって、スカートの生地を押し上げる魅惑の臀部へと連なる。
 なぜだろうか――雅人の胸が締め付けられる。日頃見慣れたはずの茜の背中が、今はその肩に男の腕が回され妙に艶かしい。黄色いリボンに飾られたロングポニーテールが風に揺れていた。

「……いいだろ……あげるから……おじさんとそこの」
 ボソボソとした男の声が聞こえてきた。よくは聞こえない。雅人はさらに聞き耳を立てる。
 横を一台のバイクが走り抜けた。茜はどうしようかと思案しているようだった。つい先日の食堂、最後に食べるのが楽しみで雅人が残しておいた鳥のから揚げを、背後から突然やって来てはひょいと摘み食いして、ごめん、ごめん、と笑いながら逃げた少女とは雰囲気が別人のようだ。
 見れば、何やら話す男の視線は茜の首から下へと下降していた。
 どこかいやらしい目つき。雅人は率直にそう思わざるを得ない。まるで舐め回すようにスタイル抜群な茜の全身を眺め、次いでセーラー服のブラウスを押し上げる胸部を、次にスカートに包まれた臀部をじっくりと時間をかけて観賞している。
 眺められた側が恥ずかしそうに身を固くすると、ニッと笑った男が、茜のポニーテールやうなじの生え際、可愛いらしい耳までもを片手で優しく撫ではじめた。
(おいおいおいおいおいおい。森下さんの髪に触れるてるよ、あのオッサン)
 思わず声を発しそうになる、雅人。美しい茜のポニーテールに触れるのは全男子の悲願であり、黄色いリボンをほどくのは男達の見果てぬ野望でもある。更にあの制服の下にはバスケで鍛えられ、体育の時間ともなれば男子達のスケベな視線の集中砲火を浴びて止まない早熟な肉体が隠されているのだ。
 美麗なフォルムを誇示する胸部は保健記録に記された八四センチという数字以上に大きく、腰は鋭角に括れ、ブルマーを履かせたら間違いなく学校一の美尻は十七歳という思春期にしては見事すぎるまでに肉感的で美しい。飢えた男子達の許されざる妄想を激しく刺激する抜群のスタイルと断言できる。校内では、密かに隠し撮りされた体操服姿の写真が夏目漱石と同等の価値で取引されているぐらいなのだ。
 体育時間でのストレッチング、ピッチリとした学校指定の濃紺ブルマーを履いたミス青葉台が、周囲に無防備な色気を振りまきながら立ち前屈をする後ろ姿は、エロ雑誌の表紙を飾るグラビアアイドルよりも二〇〇%セクシーと言える。
 その森下茜の体をあのスーツ姿の男は、制服の上からとはいえ至近距離で視姦するように眺め、あまつさえは艶やかな黒髪に触れているのだ。
 腹立たしいやら羨ましいやらで雅人は横の壁を殴りつける。
(明日には死んでしまえ!)
 そう毒づく目の前、驚いた事に男の手がユルリと滑り降りた。スローモーションに茜の背中で半円を描いて下り、上向きに盛り上がったスカートの上へと着地すると、ゆっくりと、しかし確実に学校一美しい茜のヒップを撫ではじめたではないか。
 茜はただただ恥ずかしそうに下を向いていた。男のするがままにスカートの臀部をネトネトに触れられている。
 どう考えても、間違って手が当たっちゃいました、などと冗談が飛ぶような雰囲気ではない。魅惑のヒップはその美しい形を淫らに変形させているのだ。男の手がスカートを捲って内側に潜り込み浮き上がった生地がいやらしく蠢いていても、茜は振り払おうとしなかった。
 男の手がさらに深く伸ばされ、セーラー服の肢体がビクッと震えた。まるで猥褻教師の言い付けを頑なに守る生真面目な美少女学級委員にも似た直立――――頬を夕陽色に染めながら指を軽く握りこみ、つぶらな瞳の視線を彷徨わせていた。
(前言撤回、あの男は今すぐ死刑だな)
 雅人は指をポキポキならす。助けに入ろうと一歩足を踏み出した瞬間、男の手が茜の腰にまわされた。そのまま寄り添うようにして、茜とスーツ姿の男の二人は路地の奥地へと向かって歩きだした。
(なんだなんだ……どこへ行こうってんだ……警察署なら方向が逆だろ)
 釈然としないものを覚えながらも雅人は足音を殺して後をつける。細心の注意を払いながら距離をあけ、物陰に隠れ隠れスパイのような行動を続けた。
 どうやら目的を持って歩いているようだ。エスコートする間にも男の手は、エスコートされる側である茜のみっちり肉が詰まって盛り上がり、歩く度にシャナシャナと左右に揺れるプリーツスカートの臀部を執拗に触り続けていた。時折、ヒップラインの中央に沿って指を緩やかに滑らせている。

(絞首刑か銃殺か電気椅子かガス室か……手近なところで鈍器で撲殺だな……しかし、あいつはいったい何者なんだ……この先にあるのは確か)
 急に伝う寒気。尾行する雅人の胸に、以前、教室で聞いたある黒い噂が口の中を覆う苦味と共に広がっていった。情報源はどこなのか、どうやって仕入れたのか、冗談めかしてとっておきの裏情報だと披露した男は自分ですら信じていないようだった。当然雅人は頭ごなしに否定したし、その場にいた全員が「オナニーのしすぎだと」笑い飛ばしていた。だがどうしてなのか今はそれを拭う事が出来ない。
 我らが青葉台高校のマドンナ、二年二組の森下茜は援助交際をしているらしい――――
 雅人の悪い予感は的中した。茜とスーツ姿の男は、ラブホテル街に立ち並ぶビルの一つへと吸い込まれるようにして消えたのだ。

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