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堕ちた勝利の女神
作者:しょうきち
公開
04. EP1ー④ ~木漏れ月の下で~
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「うう……うあぁぁン、嫌ぁッ!」
「ああ……沙希ちゃん、出すぞっ!」
「ああっ……また……」
 意識を取り戻した後も、沙希は再び犯されていた。そしてそれは、日が落ち街が夜闇に飲み込まれてゆく時間帯まで続いていた。
 シンに言われるがまま、一度は隷属の言葉を口にしてしまっていた沙希であったが、やがて薬物とアルコールから頭から抜け、真っ当な思考能力を取り戻してからは、ひたすらに大きな、ドス黒い後悔が胸中を塗り潰していた。
 沙希は「もう帰らないと。お願い、お願いよ」と涙ながらに訴えたが、その度に「まあまあ、あんまりにも沙希ちゃんが可愛かったから」と宥めすかされたり、時には「俺の言う事が聞けねえってのかよ」等と高圧的な態度で脅されたりしながら、何度も膣内へ射精される結果となった。
 やがて、ついに満足したのか、それとも飽きたのか、シンは「もう帰っていいよ」と吐き捨てる様に沙希へ言い放った。時刻は夜の11時を回っていた。
 辺りに散乱していた服をかき集めていた沙希に対し、シンは「今日いっぱい楽しませてもらったお礼だよ」と言って財布の中に無理矢理五千円札をねじ込んできた。
 まるで世間的には二枚目で知られる芸能人が六本木ヒルズの多目的トイレに呼び出す不倫相手に向ける様な、人を人とも思わぬような扱いである。沙希は憫然たる気持ちとなった。
 屈辱を堪え、沙希が帰ろうとしていると、シンは「今日の記念だよ」と言って携帯のカメラを沙希に向けた。二人で肩を組み、カメラに向かってピース・サインをするよう促された。
「ほら、初体験の記念写真だよ? ほら、笑ってよ沙希ちゃん。ヒヒッ」
「え、ええ……」
 沙希はもう一刻も早く帰りたかったが、断ったり嫌な素振りを見せると何をされるか分からなかったので、素直に応じた。 
 写真の中の沙希は、初めての彼氏に心踊らせる様なものでは決してなく、哀愁を帯びたような、そんなぎこちない笑顔であった。


「未緒ちゃん? 未緒ちゃん!?」
「……!? 沙希ちゃん!!」
 一刻も早くカラオケボックスを出ようと通路を早足に歩いていると、未緒と鉢合わせした。とぼとぼと重い足取りで歩いていた未緒は、沙希の姿が目に入るや否や沙希の元へ駆け寄った。
 ひとしきり泣きはらした後のようで、その目元は腫れていた。着衣は乱れ、心なしか眼鏡のフレームも歪んでいるように見える。
 その表情を見て、沙希は未緒の身に何が起きていたか察した。よく見ると頬も腫らしているようにも見える。やはり駆け落ちなどしていたのではなく、沙希とほぼ同様の経緯で、未緒も別室で処女を散らしていたのである。
 沙希は心の中で親友を疑った事を恥じた。
「未緒ちゃん……。ね、もう行こ?」
「グスッ……。うん……」
 沙希は震える未緒の手を取り、一目散にカラオケボックスを後にした。


 夜の竹下通りは路上ライブや夜の店の客引きがひしめき、それを取り囲んだり避けたりする若者達でごった返している。
 終電が迫る時間帯であるが、彼ら・彼女らは帰宅する素振りなどおくびにも出さない。一晩中ファーストフード店やカラオケ屋で駄弁り、放蕩の限りを尽くすのだろうか。
 沙希達二人は、それらの若者たちと肩をぶつけたり、時には転ばされそうになったりしながら、駆け足で通りを抜けていった。
 とにかく人混みを抜け出したかった。
 今は他人に、 知らない男に至近距離に近づかれるのが怖かった。V系のイケメンなどは尚更である。
 竹下通りを抜けると原宿駅があり、その脇に架かる神宮橋を渡り、線路の上を抜けて行くと、裏手には広大な代々木公園が広がっている。
 沙希は早々に原宿駅からJR山手線へと乗り込もうとしたが、左腕をぐいと引っ張る感触に気付いた。振り返ると、未緒が震えながら沙希の腕を引いていた。
「未緒ちゃん、どうしたの?」
「沙希ちゃん……。もう少し、もう少しこのままで……」
「……いいよ。終電まで、少し歩こっか?」
 沙希と未緒は、代々木公園周りをぐるりと取り囲む歩道を二人で手を繋いで歩いていた。
 歩道の脇に一台の自動販売機があった。電灯が切れかかっており、ブブブブと鈍い音を発したり、その回りをヤブ蚊がブンブン飛び回ったりしている。
 沙希は何か飲み物を買おうと財布を取り出した。沙希はその中に先程捩じ込まれた五千円札を見つけた。あの時、シンが爽やかイケメンの仮面を脱ぎ捨て性獣と化した場面が脳裏に蘇った。沙希はそれを脳髄から振り払うように、半ば衝動的に五千円札を自販機に投入していた。
「さ、沙希ちゃん……?」
「フゥーッ、フゥッ。ん、何でもないの。未緒ちゃん、何か飲む?」
 未緒は無言で首を横に振った。何か言いたそうに口を開き、再び口を閉じてうつむいた。そうした仕草を何度か繰り返す。
 沙希はそんな未緒を見つめ、辛抱強く見守っていた。
 やがて未緒は意を決した様に口を開いた。
 目尻には涙を湛えていた。
「あのね……、あのね、沙希ちゃん……」
「なぁに、未緒ちゃん?」
「今日はごめんね……。私のせいで……私が誘ったりなんてしなかったら……」
 俯く未緒だったが、不意に額に冷たい感触を覚え、声を上げた。
「ひゃっ!?」
「はい、未緒ちゃん。一緒に飲も?」
 沙希の手には、黄色いスポーツドリンクの 缶と、青いスポーツドリンクの缶が握られていた。未緒の額に当てたのは、黄色い缶の方であった。
「いいのよ、未緒ちゃん。辛かったよね? これ飲んで、今日の事はもう忘れよ?」
「うん……。う、う、うわぁあん……」
「未緒ちゃん……」
 沙希は、遂に泣き出した未緒をそっと抱きすくめた。
 沙希自身、今すぐ叫び出したい程の痛みと心の痛みを抱えながら、ここまで歩いてきた。しかし未緒の事を慮るとき、沙希は自らの心と体の痛みを忘れていた。このような時でも自らの事を省みず、他人を思いやれるというところが、虹野沙希という少女の美徳であった。
 暫く後、涙と鼻水でくしゃくしゃになった沙希の上着から顔を離し、未緒が口を開いた。
「ね、沙希ちゃん」
「なあに、未緒ちゃん?」
「エネルゲン……あんまり美味しくない……」
「え!? ご、ごめん未緒ちゃん。苦手だった?」
「だってこれ、しょっぱいんだもん……。おかしいね、甘い筈なのに。沙希ちゃん、こっちの残り半分はあげる。だから、そっちと交換しよ?」
「……未緒ちゃん。うん……いいよ」
 沙希は、未緒と飲みかけのドリンク缶を交換した。未緒は沙希から受け取った残り180ml程のアクエリアスを、一息で飲み干した。
「ふうっ……。今日飲んだタピミルよりも、カクテルよりも、この一杯が美味しかったよ……」
「うん、私もよ。未緒ちゃん……」
「終電、来ちゃうよ。帰ろっか……」
「うん。そうだね……」
 沙希は未緒から受け取った残りのエネルゲンを飲み干すと、空を見上げた。大きく広がった広葉樹の隙間からは、ぼんやりと鈍い月明かりが漏れている。
 今は繁華街のギラつく街灯よりも、そんな心許ない光が明るく、優しく感じられた。
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