S ーエスー
作者:ブルー
公開
03. つかの間の日常
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 次の日の教室--。
 登校するやいなや詩織の席の周りを大勢のクラスメイトが囲んだ。
 俺は人混みから押し出されるように自分の定位置に座った。
 廊下には、情報の早い他のクラスの男子どもが集まって教室の中を覗いていた。
「朝からすごい人気だな」
 好雄が頭の後ろに指を組んで俺の席に来た。
「もうあきらめたのか」
「あの人数じゃな。まるでバーゲン会場だよ」
「ほら、頼まれてたやつ」
 俺は鞄の中から例の雑誌を取り出した。
「うおおお。一生の恩に着る」
 好雄は表紙にキスしそうな勢いで受け取った。
「あんまり見せびらかすなよ」
「額縁に飾って我が家の家宝にするぜ」
「わかりやすい奴だな」
「詩織ちゃんは何か言ってなかったか? 好雄くんに会えなくて寂しかった、とか」
「ぜんぜん。好雄の”よ”の字も出なかったな」
「つれないなぁ」
「そういえば今度、ソロコンサートがあるっていったな」
「マジか。フリフリのアイドル姿が超絶可愛いんだよな。絶対にチケット取るぜ。お前も行くだろ」
「ああ」
 鞄の教科書やノートを机の中に移した。
(昨日、詩織が俺の家に泊まりに来たとはいえないよな)
 夜遅くまで詩織と二人きりでいろいろ話した。芸能界での仕事や学校のこと。今朝も一緒に登校してきたばかりだ。
 好雄が知ったらめんどうなので黙っておくことにした。バレたら詩織に迷惑がかかるかもしれない。
「詩織ちゃん、機嫌が良さそうだよな」
 好雄はクラスメイトに囲まれている詩織の方を見ながらいった。
「そうか」
「連日の撮影で疲れてるかと思ったら表情も明るいし、なんか良いことでもあったのかな」
「仲のいい友達の顔を見れたからじゃないのか」
 好雄のいう通り、今日の詩織は一段と元気に見えた。
 生気がみなぎっている。
 詩織と一瞬、目が合った。
 俺を見てたしかに微笑んだ。
「ちょっとごめんなさい」と席を立ち上がり、詩織がこちらに来た。
 左手を後ろにして何かを隠している。
「2人で何を話してるの?」
 詩織が口元に手を当てて尋ねる。
 絹のようなさらさらのストレートヘアにいつものヘアバンド、いつもの制服姿。
 胸の黄色いリボンが朝よりも輝いて見えた。
「やあ、詩織ちゃん」
「元気にしてた、好雄くん?」
「元気元気。詩織ちゃんこそ元気みたいだね」
「仕事はいそがしいけど、睡眠はしっかり取るようにしてるのよ」
「あ、これっ、ありがとうね」
 好雄はサインのお礼をいった。
「人にあげたりしたら怒るわよ」
「家族が人質に取られても断るよ」
「うふふっ、おおげさね」
「昨日の歌番組見たよ。衣装もすごく似合ってたね。永久保存版として録画したよ」
「私、へまをしてなかったかしら」
「完璧だったよ、歌も踊りも。とくに容姿がピカイチ。いまをときめくトップアイドルって感じだったよ」
「好雄くんはあいかわず褒めるのが上手ね」
「俺は詩織ちゃんの一番のファンだからね」
 好雄は次から次にしゃべっていた。
 ほんと可愛い女子がいると口が止まらない奴だ。
「好雄は他の女子にも同じようなことを言ってるけどな」
「そうなんだ。残念」と、詩織。
「あれは挨拶みたいなもん。詩織ちゃんは本気だよ」
「やれやれ」
 俺があきれていると、詩織が俺のシャツの袖を指でつまんで軽く引っ張った。
「何か用事か、詩織?」
「ねえ、何か忘れてない?」
「えっ? 数学のプリントは明日のはずだよな」
「あーあ、全然覚えてないの? これ、なーんだ」
 お姉さんっぽい表情をした詩織が背中に持っていた物を俺に見せるように上げた。
 袋に包まれた弁当箱だ。
「あっ、俺の弁当! そういえば持ってくるのを忘れていた」
 今朝は詩織と登校できるので舞い上がってしまった。
 何か忘れているような気がしていたが、それが弁当だといま気づいた。
「朝早くに起きて、私が作ってあげたのよ」
「えっ!? 詩織が俺の弁当を??」
「半分ぐらいおばさんに手伝ってもらったけど、感謝して食べてね」
 朝早くから詩織が起きていたのは知っていたが、てっきり母さんと話しているのだと思っていた。俺のためにお弁当を作ってくれているとは知らなかった。
「わざわざありがとうな」
「いつ気づくかしらって思ってたのよ。本当におっちょこちょいなんだから」
「う、うるさいな」
「あー、なに、その態度。いらないのかなぁ」
「ごめんなさい。俺が悪かったです」
「うふふっ、たしかに渡したわよ。たまには幼なじみらしいことをしておかないとね」
 俺は詩織手作りのお弁当を受け取った。
 ハッと気づいた。
 好雄を含む男子の視線が突き刺さるように痛い。
 嫉妬を超えて殺意を感じる。
「この裏切り者めっ!! 日本中の”しおりん”ファンを敵に回したぞ!!」
 好雄が俺の首をヘッドロックしてきた。
「くっ、くるしい……」
「うふふっ、好雄くん公人をあんまりいじめたらだめよ」と、詩織はクスクスと笑っていた。


 5時間目--。
 スポーツ日和のグラウンドでは、整列した2年生の女子が創作ダンスの練習をしていた。間近に迫った体育祭の演目の一つだ。
 男子は各々が芝生に座り込んで、遠巻きに眺めている。
 白い体操着に青いブルマ姿の女子が100人以上並んだ様は壮観だ。両手にはビニール紐で手作りしたポンポンを持っている。
 CDラジカセから流れる音楽に合わせて踊っている。ちょっと昔に流行った曲だ。
 詩織は一番前列のセンターにいる。目立つので探さなくてもすぐにわかる。
 アイドルにとって日焼けはNGのはずだが、そんなことはお構いなしといった様子だ。
 女子が両手を当てて腰をくねらせる振り付けになると、男子の中から「フウウー!」という煽るような歓声があがった。
 詩織もポンポンの両手を腰に当てている。ステージで鍛えられているだけあって、ちょっと大人っぽいダンスでも変に恥ずかしがらずに堂々としている。
 他にも右足を高く蹴り上げたり、チアダンス風の振り付けもある。
 くるりとターン。両手を広げてジャンプして、テンポ良くポンポンを振る。
 ハイライトは女子全員が地面に座って両足を大きく開く場面で、大勢の男子が見守る中、ブルマ姿の詩織は両手を後ろについて胸を反らせた姿勢でスラリとした美脚を惜しげもなく開いた。
 一斉に男子たちの口笛が吹かれる。
「お色気たっぷりダンス。今年は役得だよな」と、隣で眺めていた好雄が鼻の下を伸ばしながらいった。
「誰が考えたんだよ、この振り付け」
 俺は半分あきれながら聞いた。
「ダンス部の女子らしいぞ」
「納得」
 ダンス部の女子はミーハーが多いので、海外アーティストの影響を受けやすい。
 こういうセクシー系の振り付けのほうが男子受けがいいなどと提案したのだろう。ありそうな話だ。
「詩織ちゃんも罪作りだよな。天使のような笑顔でブルマのケツを振ったりして。あの腰つきがマジでヤバイ」
「目線が完全におっさんだな」
「なんとでも言えよ。小ぶりだけどぷりっと引き締まってて、見てるだけでむしゃぶりつきたくなる」
 好雄がそう言うのも無理はない。
 他にも可愛い女子は何人かいるが、一人だけ新体操選手みたいにスタイルがいいので普通に踊っていても自然と人目を引きつける魅力がある。
 しかも、世間で人気のアイドル美少女がブルマ姿で踊っているのだ。
 みんな目に焼き付けるように凝視している。
 最後に女子が集まってポンポンで大きなハートマークを作る。
 練習時間もほとんどなかったはずなのに詩織は完璧にこなしていた。
「詩織ちゃんって、本番は参加できるのか」
「本人はそのつもりみたいだけどな」
「やっぱり胸でかいよな」
「そうか」
「ジャンプしたとき体操シャツの中で弾んでたぜ。見てなかったのか?」
「あんまり言ってると嫌われるぞ」
 踊り終わった詩織は仲のいい友人たちとしゃべっていた。
 両手でブルマについた砂を払っている。
 ブルマの表面がプルプルと揺れる。
 男子に見られているのに気づかない様子で、両手の指を使ってブルマの食い込みをさりげなく直した。
 その仕草がすごくエロかった。ゴムの音がパチンと聞こえたような気がした。

 授業が終わり水飲み場で顔を洗っていると、詩織が「はい、これ」とスポーツタオルを渡してくれた。
「サンキュ」
 俺はスポーツタオルで顔を拭いた。
「公人(なおと)、さっき私のこと見てたでしょ」と、片手の指先で耳元の髪をかきあげる。
 ちょっとおしゃまな表情だ。
 汗ばんだ体操着姿の詩織は大人っぽくて妙に艶めかしい。
 思わずブルマのお尻や太腿に触りたくなる。
「ちがうよ」と、俺はとっさに嘘をついた。
「ウソっ、ずーっと私のことを見てるの気づいてたわよ」
「だから、ちがうっていってるだろ」
「公人のエッチっ!」
 詩織は可愛らしく舌を出した。
 他の女子とキャッキャッと言いながら校舎へ駆けっていった。
 アイドルの時とギャップがある姿が普通の女子高生ぽくって、今日一番ドキッとさせられた。
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