S ーエスー
作者:ブルー
公開
05. 封筒の中身
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 部屋に戻っても、公園での詩織の様子が頭から離れなかった。
 なにか俺に話せないようなことがあるのではないかと思った。
 あと春本が本当に偶然やって来たのか引っかかる。

 夜中、好雄に電話をした。
 窓の外は静まりかえり、すでに詩織の部屋の灯りは消えていた。
 呼び出し音がしばらくした。
「はい。もしもし、早乙女です」
「好雄か」
「なんだお前か」
「なんだはないだろ」
「こんな時間に何の用だ」
「ちょっと聞きたいんだけど、春本って知ってるか?」
「春本……春本……映画プロデューサーの春本康樹か?」
「有名なのか?」
「『時を割る少女』や『セーラー服とサブマシンガン』は見たことあるだろ。あれのプロデューサーも春本だぞ」
「マジか」
 どちらも一世を風靡したアイドル映画だ。当時人気の美少女をヒロインにして大ヒットした。再放送を何回も見たことがある。
 主人公のヒロインがサブマシンガンを連射して「エクスタシー!」という台詞は流行語にもなった。
 詩織もいつかこういう映画に出演してみたいといっていた。
「元々は父親が大手出版社の社長で、コネを活かして映画に進出して大成功したってわけさ。いわゆるメディアミックス戦略だな。近頃は大規模オーディションを開催してアイドルグループにも参画してる。表向きは映画プロデューサー兼実業家ってことになってるけど、政財界にも顔の広い芸能界のフィクサーみたいな奴だな」
「詩織が春本の映画に出演するらしい」
「ビッグニュースだな。ヒットは約束されたようなもんだ」
「まだ正式に決まったわけではないって詩織は言ってたけど」
「名実ともにトップアイドルの仲間入りだけど、ちょっと心配だな」
「なにがだよ」
「春本は黒い噂があるからな」
「噂?」
 電話口でオウム返しに尋ねた。
「キャスティングしたアイドルを自分の愛人にするっていう話さ。プロデューサーの立場を使えば、タレントは逆らえないだろ。他にも手懐けた女の子を政財界の実力者にあてがって裏のコネクション作りに利用してるとか。政治家や大金持ちのおっさん連中はアイドルや女優の卵に目がないからな」
「芸能界によくある都市伝説だろ」
「そうかもな。春本に気に入られたアイドルはみんな売れっ子になってるから、そのひがみもあるかもしれないな」
「だいたい事務所が守ってくれるだろ。詩織は事務所にとって金の成る木なわけだし」
「それなんだけど、詩織ちゃんの事務所がちょっとヤバイらしい」
「大きな事務所だって、好雄がいってただろ」
 好雄によると日本には大手と呼ばれる芸能事務所が8つある。男性アイドルのパイオニアであるJ事務所・傘下に複数の事務所を持つBプロダクション・お笑いの総本山のY興業・バラエティに強く老舗のW事務所・多数の人気俳優を抱えるHプロ・上場企業でアーティスト系のA事務所・元々はCD輸入業から転身したE事務所。詩織が契約しているのは美の総合商社といわれるO事務所だ。これらの芸能事務所は放送・広告業界との繋がりも深く、大きな仕事をマネジメントしてもらえるメリットがある。
「創業者が死んで、二代目に代替わりした」
「いつの話だよ」
「つい最近。創業者の娘婿で、元々はタクシーの運転手をしてたらしい。たまたま小学校の同窓会で再会して意気投合したとか。芸能界についてはズブの素人だよな。そいつがいきなりやって来て、それまでのルール無視で事務所を取り仕切って社員と対立。古参のマネージャーやタレント達が次々辞めてるって話だ。残ってるタレントで有望なのは詩織ちゃんぐらいだろ」
「やけに詳しいな」
「週刊誌に『O事務所のお家騒動』ってリーク記事が載ってたからな。デビュー以来、清純派のイメージを守ってきた詩織ちゃんが、急にグラビアになったのも事務所が方針転換した証拠だろ。あの雑誌の出版社は春本の会社だぜ」
「そんな裏話があったのか」
「芸能界はクライアントとの繋がりで仕事を取ってくる面もあるからな。営業してた社員がいなくなって困ってた事務所にすれば、政財界に太いパイプを持つ春本がバックにつくのは願ったり叶ったりだろ」
 にわかには信じられないが、芸能界にも詳しい好雄の話だけに説得力があった。
 詩織も仕事のことで悩んでいるようなことを言っていた。グラビアになったのも好雄のいう通り事務所と春本がグルだと考えればつじつまが合う。事務所にすれば、映画で知名度がアップしてCMなどの仕事も転がり込んでくるのだから一石二鳥だ。
「詩織ちゃんは大丈夫だとは思うけどな。その辺のアイドルと違って芯がしっかりしてる女の子だしさ」
「そうだな……ありがとうな、好雄」
「いいってことよ。またなんかあったら電話しろよ」
 好雄との電話を終えた後も、しばらく椅子に座って考えていた。
 遠くで救急車のサイレンの音が聞こえて、夜の闇に溶け込むように消えた。
 
 ふと春本に封筒を渡されていたのを思い出した。
 学生鞄の奥に入れたままになっていた封筒を取り出し、椅子に座って開けてみた。
 中にはA5サイズのファイルが何枚か入っていた。
「これって、あの雑誌の写真だよな。ボツになったカットか」
 教室で制服姿の詩織がこちらを向いて写っている。黒板には桜の花びらが散っているイラストが描いてある。同じ場所で撮ったことがわかる。
 違うのは、足元から見上げるようなローアングルで撮っていることだ。なまめかしい太腿が際どい部分まで見えてる。もうちょっとでスカートの中が見えそうだ。
 写真の横には『藤崎詩織ちゃんのえちえち秘蔵ショット!』と、雑誌と同じような文字がプリントしてある。
 おそらく試し刷りしたのだろう。グラビアは何百枚も撮って実際に使われるのは数枚だけだと、好雄がいっていた。どの写真を載せるかは編集者とカメラマンが話しあって決める。通常、ボツになった写真は社外秘として人目に触れることはない。
 二枚目のファイルを見て「うおっ!」と声が出た。
 雑誌では最後のページに載っていた、制服姿の詩織が保健室のベッドに座ってこちらを見ている写真だ。
 構図はそれとまったく同じだが、ピッタリと閉じていたはずの膝頭が左右に30センチほど開いて、スカートの奥に純白のデルタ地帯がバッチリ写っている。あれの続きで撮ったということだろう。
 『無防備なセクシーポーズにクラッ! かわい~~パンティーが丸見えっ!』と書いてある。
 カメラマンはモデルの女子を褒めまくって気分を盛り上げるのも重要なテクニックの1つだ。仕事で褒められ慣れている詩織でもフワフワとした気持ちになって、だんだんとその気になったとしても不思議はない。雑誌でのアンニュイな表情と違い、目元がほんのりと赤く染まった恥じらいの表情が状況を物語っている。
 次のファイルを見た。
 立ち上がった詩織が両手の指先でスカートのホックを外そうとしている姿を横から撮った写真だった。
 ぼーっとした横顔。まるで心ここにあらずといった様子だ。
 それもそのはずで、上半身は純白のブラジャー姿になっていた。ベッドの上には黄色いリボンのセーラー服が置いてある。
 『全国のファンのためにカメラの前で下着姿になる覚悟決めた、詩織ちゃん。だんだんと撮影に慣れてきた!?』
 現場でカメラマンに「水着も下着も同じだよ。ファンのためにちょっと勇気を振り絞ってみようか」とでも説得されたのだろう。
 詩織は、これも仕事だと考えて承諾したとしか考えられない。
 4枚目のファイルは、保健室で上下ともに純白の下着姿になった詩織の姿が写っていた。白いソックスの足元から頭の先まで全身が写っている。
 両腕を背中で横にして、愛くるしい瞳でこちらをまっすぐに見つめている。
 その様子からは、被写体としての仕事を全うしているのが伝わってきた。
 透き通るような色白の肌。丁寧にもブラジャーの片側のストラップが横にずらされていた。たわわなバストがブラジャーからこぼれそうだ。
 思わずそこばかりを注目してしまう。
 下着姿だと、水着姿とは違った覚悟を醸し出している。よこしまな妄想をかきたてられる。
『制服を脱いだ詩織ちゃんの美貌に現場スタッフも釘付け! 清純な発育途上の体つきが男の性欲をそそる!』
 撮影現場にはカメラマンだけでなく大勢のスタッフがいたと詩織自身がいっていた。
 そいつらも詩織の下着姿を生で見たわけだ。
 中には衣装(下着)を直すふりをして、詩織の肌に触れた奴もいるかもしれない。
 カメラマンに言われるままに下着姿でいろんなポーズを取ったはずだ。そのたびにシャッターが切られただろう。
 撮られているうちに恥ずかしさが消えて催眠術にかかったような気持ちになったかもしれない。
 想像しただけで呼吸が苦しくなる。
 最後の一枚を見た。
 保健室のベッドに仰向けで寝転がった詩織が、両手で胸を隠して両足を投げ出すようにして大きく開いていた。
 ブラジャーのホックは外されていて、手で押えてないと見えてしまいそうだ。さらにパンティーが半分ずらされて大事な場所が見えそうになっている。
 他の写真とは打って変わってなめらかな肌が火照っている。絹のようなストレートの髪を広げて、前髪のかかった眉を斜めに下げて潤んだ瞳でカメラを見つめている。
(ほとんどセミヌードじゃないのか!? きわどすぎるだろ!)
 イメージを超えたサービスショットに言葉を失った。
 大事なところは見えないようにするからとカメラマンに強引に説得されて、どんどん下着をずらされていった場面が想像できる。
 詩織の表情からは「これ以上は無理です」と、必死になって抵抗しているのが伝わる。
 写真の横には『女の子がベッドでそんなポーズをしてたら、悪いおじさんに襲われちゃうよ!?』と煽り文句が書いてある。
「アイドル雑誌のグラビアというより、スーパー写真塾とかのエロ本と変わらないだろ」
 スーパー写真塾は、制服を着た女子の過激なグラビアが売りの成人雑誌だ。
 こんな写真を撮っていたとは詩織は一言もいっていなかった。アイドルであれば、グラビアで下着になることぐらい珍しくないのはわかっていても心配になる。
 頭の中では、カメラマンに言われるままに下着姿であられもないポーズをする詩織の姿が浮かんでいた。現場でマネージャーが止めなければ、一糸まとわぬ姿を写真に撮られていた可能性もある。雑誌にすれば発行部数を増やす意図で、清純派アイドルの詩織を脱がせるだけ脱がしてしまえという打算があったはずだ。もしかすると現場に春本がいたかもしれない。考えれば考えるほど悶々とした。
 その夜、俺はなかなか寝付けなかった。
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