グラビアアイドル
作者:メルト
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「はあ……」
 角山書店のコミックZの編集部で、澤田 真紀子は手に持った書類の文字を見つめながら
その端正な顔を歪めていた。
『ミスコミックZ 202X フレッシュな水着姿で大胆ボディ披露』
 書類に書かれたその文字を見ながら再びため息をついた
「よう、編集中どうかしたのかい?」
「あ、長さん。おはようございます」
 彼女が顔を上げると、そこにはくたびれたスーツを着た馬面の中年が手に持った缶コーヒーを置きながら
訪ねてくる。
「そんなしけた面していたら、折角の美人さんが台無しだ。なにかあるのなら、俺も話してみたらどうだ。そうしたら案外すっきりするかもしれないぞ

 「……じつは、これなんです」
 冗談を交えながら缶コーヒーを飲む長瀬の言葉に気分が少し和らいだ澤田は眺めていた書類を渡す。
 「へえ~、もうそんな時期か。実は、うちのアニメ誌でも近頃コスプレグラビアのコーナーとかが結構人気でね、再来月辺りにこの娘達使ってもいいかもな~」
 受け取った書類に書かれた情報が何から、どうやら澤田編集長はミスコミックZ絡みで何かお困りだと感じた長瀬はさらなる情報を得ようと会話を再開するが、彼女はただ暗い表情をするのみであった。
 「……理…ですよ……」
 「へ?!」
 「無理なんです。この娘達使うのは不可能なんです」
 「……一体何があった?」
 「実は……」
 悲痛な表情を浮かべた澤田は長瀬に何があったのかを話始めた。
 「そりゃ、なんともまあ……」
 「本来は、芸能事務所を使って適当な娘に作品のコスプレをしてもらったグラビアを載せる程度の企画だったんですが、
月城先生の 『斬撃の吸血鬼』が大ヒットしたじゃないですか」
 「ああ、劇場版の独占スクープとかでうちのアニメ誌も凄い売り上げが伸びたからな」
 「それに、気を良くした上層部の方々が『斬撃の吸血鬼ブーム』を利用して、うちの雑誌を使って新人のアイドルやらモデルを大々的にデビューさせようと
したのは良かったんですが……」
 「起用しようとしたアイドル達が揃いもそろって、発表前に男とカケオチして行方不明、裏垢炎上、メイド喫茶での陰湿いじめ等……の問題を起こし」
 澤田が口を開くたびに出てくる言葉を聞くたびにうんざりする長。
 「おまけに、そのアイドルの撮影費用にかなりの予算を費やしたので、撮影所とカメラマン雇ったらもうほとんど予算が……一体どうすればいいのか」
 「おまえさん、よくこみパに顔を出しているんだろう!それだったら一人や二人コスプレイヤーの知り合いとかいないのか?」
 「私がこみぱに顔を出すのは主に同人サークルの方ですから、そっちの方はあまり……。それに私の知ってい娘に頼んだ場合、衣装の問題が……」
 「そういえば、人気キャラのリーナの衣装って……」
 「露出が多いうえに、着る予定だった娘もスタイルが良かったので結構忠実に作くってしまたんですよ」
 「スマホを弄り、幾つかの画像を表示させ
 「こりゃ、着る人間を選ぶな」
 「でしょう」
 「いたいた!長さんー、長さんー仕事できましたよ」
 時間無し、金無し、人無しの三無し状態に頭を抱える二人の元に封筒を抱えた太った男が駆け寄って来る。
 「おっ、月村君か!頼んでいたイラストできたのか?」
 「はい、締め切り二日前なのにきちんと上げましたよ」
 月村から渡された茶封筒の中から、印刷された用紙とチャック式ビニール袋に入ったSDカードを取り出し長瀬はイラストの確認を始める。
 「おお、いい出来じゃないか」
 「あら、本当!これ付録のポスターとかに付けたら凄く売れそうね」
 「いや~お二人に褒められて一安心ですよ。これならリテイクとか追加とかはないですよね」
 「大丈夫だよ!今回はこれでOKだ、次回の仕事は追って連絡するから帰ってもらっても大丈夫だよ」
 「いや~よかったですよ。これで安心して今日発売のプラモを買いに行けますよ」
 嬉しそうに、これからの予定を語る月村に苦笑いを浮かべる二人。その情報からふとした疑問が浮かんだ長瀬は、彼に尋ねた。 
 「おまえさん、プラモとかじゃなくて美少女のフィギアとかの方がメインじゃなかったか?」
 「いやだな、長さん近頃は美少女キャラのできのいいプラモとかも発売しているんですよ。もしかして知らなかったんですか?」
 「そうなの?」
 その手の事に疎い澤田が想像を働かせるがどうもイメージが浮かばないらしい。
 「凄いんですよ。ほら、これなんですけど」
 「なるほど……」
 「これ、本当にプラモデルなの?」 
 スマホで表示された特集記事を見た二人は記事を見ながらプラモデルの出来の良さに感心していた。
 「おっと、急がないとこのシリーズなかなか人気なんで出遅れたら売り切れてしまうかもしれないんで」
 「おいおい、あわてて転ぶなよ!怪我したら来月の仕事頼めなくなるんだからな」
 「あっ、はい! それじゃあ、失礼します」 
 慌てて、走り出す月村の後姿を見ながら長瀬は先ほどの記事をもう一度見ようと自分のスマホを弄りだす。
 「出た出た!おや……」
 画面に映し出された文字と画像の中に、ふと見知った画像がある事に気づいた長瀬は画像を表示させる。
 そこには、近頃よく編集のアルバイトに来てもらっている二人の女子大生のうちの一人の少女の画像がトップに何枚も表示されていることに気づいた。
 「あら、これ高瀬さんじゃない。そういえば、あの娘も結構有名なのよね」
 自分のスマホを弄っていた澤田も画像の少女に気づき画像を眺めていた。
 「なあ、編集中もしよかったら、さっきのグラビア企画俺に任せてもらえないか?」
 しばらく、スマホを眺めていた、長瀬は何かを考えついたのかニヤリとした笑みを浮かべる。
 「えっ、長さん何か思いついたの?」
 「ああ、割と安上がりでしかも結構受けそうな企画を思いついた」
 長瀬が思いついた考えを聞いた澤田は編集長としての考えで意見を検討する。そしてそれなら確かに可能かもという思考にたどり着く。
 「確かに、それなら安上がりで済むわね。ただ、漫画家の先生達には負担が
かかるかもしれないけど」
 「その負担は、手順を逆にすることで今回は解消する」
 「逆?」
 「原稿からではなく、モデルかの方から作るって感じで。そういうわけで編集長は人気のありそうなヒロインを大至急選んでくれ。俺は、その間に下絵用のモデルを用意するから」
 「わかったわ!今回は長さんの意見を採用させ貰うわ」
 そう言って、二人は動き出す。澤田は編集部に行き何人か残っている編集部員を探しに、長瀬は自分のスマホの住所録にある名前をタッチする。
 「もしもし、高瀬君か?実は……」

 ――それから二カ月後――

 大学からの帰り道、買い物があるから付き合ってくれと言われた和樹は瑞希の荷物持ちをさせられていた。
 「和樹は、近頃漫画の描き過ぎで運動不足なんだからたまには運動しないとね」
 「わかっているよ、自分でも近頃体力が落ちたと思っているんだから」
 和樹は、目の前にいる瑞希の買った食材や日用品などを原稿執筆のせいで衰えた筋肉と消耗してほとんど枯渇寸前の体力
を使い運んでいた。
 「まあ、イベント直前まで毎日ご飯作って上げたんだからその分の恩は返してもらわないとね」
 「へいへい、ありがとうございます。俺が無事にこみぱの原稿を完成させられたのは、瑞希様が毎日ご飯を作っていただいたからです」
 「よろしい!じゃあ後は本屋さんで雑誌と本を数点買って終了だからね」
 目の前を嬉しそうに駆けていく瑞希を見ながら再び足に力を入れゆっくりと歩き出す和樹
 「ほら、早く早く! 早くしないと置いてっちゃうぞ」
 「待てくれよ。荷物が結構重いんだからそんなに焦らせないでくれよ」
 そんな和樹に嬉しそうに声で自分の事を呼ぶ瑞希のために少し歩くスピードを上げる和樹だった。
 「じゃあ、私はいつもの雑誌を買って来るから和樹はいつものところで時間潰してて」 
 本屋に入り、瑞希が趣味のハーブや紅茶、料理に関する本を物色し始めたのを確認すると、和樹は瑞希に言われたいつものところに
足を運ぶ。
 「おーおー、今月も幅とっているな」
  平台に二列に並び積み重ねられている今月発売のコミックZを手に取り眺める和樹。
 「『斬撃の吸血鬼』、先月はいいところで終わったからな」
 今ブームの斬撃の吸血鬼』が載っているせいか先月、先々月ともに発売から半月後近くまで雑誌を読むことができなかった和樹はコミックZを手に取り
レジで購入する。
 「すいません、コミックZありますか?」
 「はい、コミックZですね。少々お待ちください」
 「すいません、コミックZは一人一冊までの購入制限を設けておりまして」
 それからしばらくの間、店の入り口付近でレジ内での会話を耳にしながらスマホを弄り、瑞希が来るのを和樹は待っていた。
 『やっぱり、コミックZは今凄く人気があるんだな』
 その様子を見ていたらビジネスリュックの中に入っているコミックZを読みたいという欲求が強くなってきた和樹はリュックの中に手を入れ梱包されたビニール
を破こうと手を動かし始めた。
 「おまたせー!待った?」
 「おわっと……! なんだ瑞希か」
 「まったく、和樹は!どうせビニールを破かないと本は読めないんだから家まで我慢しなさい」 
 ビニールに穴が空き破けそうになった直前に、瑞希に後ろから声を掛けられビクっとする和樹の様子から察した瑞希は
和樹をたしなめると同時に歩き出す。
 「ほら。今日は、この後和樹の奢りで新作のケーキ食べに行くんだから」
 「分かってるって!でも、瑞希そんなに急がなくてもケーキは逃げないからゆっくりと歩いていかないか?」
 「だめよ。今から行くケーキ屋さんのケーキはインスタ映えするから女子に凄い人気があるんだから」
 「え、俺達って今からそんな店に行くの?」
 これから訪れる苦労がどっと肩に押しかかる和樹と期待に胸を膨らませる瑞希。
 「うん。この間、南さんに教えてもらったんだ凄くおいしいって」
 「……そうか、おいしいのか。はははは……」
 二人は、違う感情を抱き道を歩き始めた。

 「ただいま……」
 マンションに帰り玄関をくぐるのと同時に鍵を締め、台所に向かい備え付けの石鹸で手と顔を洗う和樹。
 「もう、くたくただよ」
 ベッドの上に座った身体を横に倒しそのまま寝っ転がろうとする和樹。とにかく疲れた身体を休めようとするが倒れた際にベッドに落ちたリュックが
彼の行動を阻害する。
 「邪魔だな」
 力ない動作でリュックをベッドの脇に落とそうとする和樹だったが、ふとリュックの中にあるコミックZの存在が頭によぎる。
 「……うんっ……」
 手を動かし、手探りでリュックを開けコミックZを取り出す事に成功する。
 「……せめて、『斬撃の吸血鬼』だけでも……」
 だるい身体をなんとか動かし、コミックZを開くと巻頭カラーの『斬撃の吸血鬼』を読み始める和樹だったが漫画を半分読み終わったところで、睡魔に負けて眠りに落ちてしまう。
 「……っ。あぅぁ……もうだっ……駄目……」 
 眠りに落ちた和樹の顔は、手の力から開放されたコミックZにサンドされてしまう。だがもうすでに眠ってしまった彼には雑誌が部屋の照明の明かりを遮ってくれるカーテンになってしまいさらなる眠りを与えてくれた。
 「……すぅ……うぅぅぅ……」 
 疲れていた和樹は気づかなかった。自分が眠気に耐えながら読み切った漫画の次のページ。今、自分の顔の上に載っている雑誌に、今日一日彼を振り回した少女の水着姿を載っていることに。
 『ミスコミックZ 202X フレッシュな水着姿で大胆ボディ披露 MIZUKIデビュー 』そう書かれたタイトル載った写真の少女はその笑顔を和樹の寝顔に向けて微笑んでいた。
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