S ーエスー
作者:ブルー
公開
07. 女々しい野郎どもの詩
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 3年生になった3月1日――。

 一足早い春のような陽気。
 教室では、クラスメイトが別れを惜しむように友人らと談笑している。
 手には卒業証書の入った筒がそれぞれ握られている。
 その中に詩織の姿はない。

「よう」
 好雄が話しかけてきた。
「それじゃ帰るか」
「そうだなぁ、帰るか」
 俺は荷物をまとめて席を立った。
 帰り道、好雄に「お前、女の子に呼ばれなかったのかよ?」と聞かれた。
 俺は「ぜんぜん」と答えた。
「そっか。詩織ちゃん、結局こなかったな」
「くるわけないだろ。仕事で忙しいのに」
「それもそうか」

 家に帰ると自分の部屋で、床にあぐらをかいて1人ただずんだ。
 窓には夕日がさしている。

 こうして、俺の高校生活3年間はあっさりと幕を閉じた。
 思えば好雄と遊んでばかりいたような気がするなぁ。
 なにはともあれ、無事卒業できて本当に良かった。
 
 一流大学は残念ながら不合格だったが、自分の才能を伸ばすために専門学校に進むことにした。

 詩織はいまもアイドル歌手として大活躍している。
 コンサートでは何万人というファンが歌に合わせて色とりどりのペンライトを振っている。
 2年の夏休み前に、都内の芸能コースのある高校に転校した。
 家を出て事務所が借りた高級マンションで一人暮らしをしている。
 仕事が忙しくなったのが表向きの理由だけど……。
 本当は違うのを俺は知っている。

 映画も興行記録を塗り替える大ヒットした。
 作品では、詩織の大胆な濡れ場が話題になった。
 清純なイメージを覆す演技で、映画祭で最優秀新人賞を獲得した。
 俺は見に行ってないけど……。というか、あの一件以来、詩織とは口をきいていない。
 次は、サスペンス系の企画が進んでいるらしい。
 週刊誌のゴシップ記事には、詩織の住んでいるマンションの同じ階に春本も部屋を借りていると書いてあった。

 この間、好雄が詩織の新しい写真集を見せてくれた。
 ハワイで撮影したらしい。
 マイクロビキニや下着姿での、男性ファンの妄想を煽るようなポーズが満載だった。
 衣装の面積もどんどん小さくなっていってる気がする。
 そのうち事務所の方針で、もっと過激なイメージビデオを出すかもしれない。
 詩織のヘアヌードなら100万本は売れそうだ。
 でも、俺には必要ない。
 だって、あれがあるから……。
 
 机の引き出しの奥には、『S』とだけ書かれたDVDがある。
 恥じらいの表情を浮かべた詩織が自らの指先で大事な場所を開いてる姿や、春本に中出しされてベッドにぐったりと横たわっているシーンなど、ディスクが擦り切れるほど何百回と見た。
 そのたびにむなしい気持ちになる。

 俺の高校生活は本当にこれでよかったのかな……。
 学校の伝説も俺にとっては無用の長物だったみたいだ。
 なにが永遠の愛だよ。くそっ、バカにしやがって!
 はぁ……。
 もう一度、やり直したいなぁ……。
 


 おわり
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