オディリックサブタ
作者:ブルー
公開
01. 5月の連休前
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 新しい学年に慣れてきた5月の連休前――

 都内、きらめき高校。
 HRを終えた2-A組の教室では、授業から解放された生徒たちが友人と雑談して自由を満喫している。
 高見公人(たかみ・なおと)は、自分の席で鞄に教科書類を詰めて下校の準備をしていた。
「ねえ、公人」
 柔らかみのある澄んだ声に顔をあげる。
 さらさらのストレートヘアにトレードマークのヘアバンドをした、藤崎詩織(ふじさき・しおり)が立っていた。
 教室にいる男子たちの視線が集まるのを公人は肌で感じる。
「ちょっと頼みがあるんだけど」
「めずらしいな。明日は雪か」
「バカっ。もう来月には衣替えよ」
 右手の指先で耳元の髪をかきあげながら、愛くるしい瞳で見つめている。
 ふわりとした前髪が細い眉に軽くかかった、大人っぽさとあどけなさが同居したアニメのヒロインのような顔立ち。身長158センチ、すらりとした手足と均整の取れたスタイルをしている。きらめき高校の女子の制服は大きな黄色いリボンがデザインされた空色のセーラー服で、透明感のある詩織が着ると清純さがぐっと増す。
 公人と詩織は家が隣の幼なじみでもある。
「それぐらいレアだって意味だろ。詩織が俺にどんな頼みだよ」
「あのね……今度の日曜日は暇?」
「暇と言えば暇だな」
「空いてるのね」
「あったとしても朝からゲームをするぐらいだな」
「よかったら、私と遊園地に行かない?」
 公人は鞄に荷物を詰めていた手を止めて詩織の顔を見た。
「詩織からデートの誘いか? 雪どころか雹が降りそうだな」
「ダブルデートだけど」
「ダブルデート?」
 公人はおうむ返しに聞いた。
「じつはハヤシ先輩にお願いされてて」
「ハヤシ? あー、チャラ男先輩か」
 公人の頭に、某人気俳優をまねた茶髪のロン毛、へちまみたいな顔をした上級生が浮かんだ。
 カッコつけでケンカが弱く、いつも女子の尻を追いかけまわしているため後輩からはチャラ男先輩と呼ばれてバカにされている。去年、詩織を目当てにテニス部に入部したのは、学校中の誰もが知っている。
「あいつ、まだ詩織のことをあきらめてなかったのか」
「顔を合わせるたびにデートしてくれってしつこいのよ」
「はっきり断ればいいのに」
「断ったわよ、何度も。きりがないわよ。私がああいうタイプが一番嫌いなことは公人がよく知ってるでしょ」
「詩織にしてはめずらしくはっきり言うなあ」
「この間なんて、女テニの試合が近いからコートを優先的に使わせてほしいって話があったけど、顧問にかけあってくるっていって結局そのままだったのよ。自信満々の態度だったのに」
 思い出して腹が立ったように詩織は腕組みをしてムッとする。
「どうしてみんな先輩みたいな人と付き合ったりするのかしら」
 いわゆる女性にだらしない性格でとっかえひっかえで付き合っている。ロマンチストの詩織は卒業するまで特定の恋人を作らないという考えの持ち主で、そういうところも人間性を疑う点なのだ。
 公人も良いイメージは持っておらず、たまに耳にする噂には、先輩が体目当てで下級生の女子ばかりを狙ってるというのもある。
「たまにいるよな、とりえもないのに彼女に不自由しない奴。マメなんだろ、きっと」
「だとしてもよ」
「詩織も災難だな、あんな先輩につきまとわれて」
「それはもう慣れたんだけど……1回デートしたらあきらめるっていうから」
「ダブルデートならいいですよってOKしたわけか」
「デートはデートでしょ」
「うまいこと考えたな」
「ねえ、どう?」
「しょうがない。一肌脱ぐか」
「ほんとに? よかった」
 公人の返事に、詩織は胸に手を当ててほっとした表情を浮かべる。
「公人に断られたらどうしようって心配してたの」
「ウソつけ。詩織なら他に引き受けてくれる男子はうじゃうじゃいるだろ」
 きらめき高校に入学して以来、男子から絶大な人気を集めている。いまや詩織は学校のアイドル的存在の美少女だ。
 詩織が他の男子と仲良くしている姿を見るたびに、公人はいつもヤキモキさせられている。
「もー、公人のいじわる」
「詩織にはこれまで借りが山ほどあるしな」
「うふふ。さすが私の一番の理解者ね」
「もう一人の女子は誰を呼ぶつもりなんだ」
「メグがその日、空いてるらしいの」
「美樹原さんか」
 公人は廊下側の席に視線を移す。
 栗毛色の長い髪に、前髪をパッツンと切り揃えた小柄な女子が仲の良いクラスメイトとおしゃべりしている。美樹原愛(みきはら・めぐみ)は、詩織の親友の女子生徒だ。小動物を思わせる顔立ちで、少女チックな雰囲気がある。明るくて人気者の詩織に対し、非常に内気な性格で、学校ではいつも詩織と行動している。
「メグはおとなしいし、他の男子に慣れるいい練習になるでしょ」
「なるほど。一石二鳥ってわけだ」
「そういうことで忘れないでね」
「わかった」
「当日は遊園地前に集合よ」
 ほのかなフローラルな香りを残して、詩織は自分の席に戻っていった。
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