オディリックサブタ
作者:ブルー
公開
02. ダブルデート
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 当日、高見公人(たかみ・なおと)が遊園地の入り口前に到着すると、すでに詩織と美樹原愛(みきはら・めぐみ)、ハヤシの姿があった。

「公人、遅刻よ」
 詩織が手招きをして呼ぶ。
「ごめん。起きたら時間ギリギリで焦った」
「目覚ましをセットしなかったの?」
「したはずなんだけど、二度寝したらしい」
「もう、ねぼすけねぇ」
 詩織があきれた顔をしている。
「よおっ!」
 先輩風を吹かせたハヤシがヘッドロック気味に腕を絡めた。
 茶髪のロン毛、糸のような細い目。英語の文字がプリントされた長袖のTシャツに、チノパン、頭にはサングラスを乗せている。
 あいかわらず格好だけはいっちょまえだが、へちまみたいな顔なので致命的に似合っていない。
「なんすか、いきなり」
「へへへっ、今日はよろしくな、相棒」
「あ、相棒?」
「なんだよ、ノリが悪いぞ」
「先輩がテンション高すぎなだけじゃ」
「それよか見ろよ。制服姿もいいけど、私服姿は新鮮だよな。二人ともレベルたけぇ」
 晴れ渡った青空をバックに、さらさらのストレートヘアを風になびかせている詩織は、カーキー色のハーフパンツにオレンジ色のシャツ・デニムのジャケットで、足元はスニーカー、肩には小ぶりな革のショルダーバッグと遊園地デートのぴったりの春らしいコーデをしている。すらりと伸びた美脚がまぶしい。
 一方、緊張した面持ちの美樹原愛は、首元にフリルの飾りがついた白いブラウスとピンクのフレアスカート、同じくピンクのベレー帽を頭にかぶり、足元はローソックスとブラウンのローファーといった出で立ちで、活動的な詩織のファッションに対して両親に大切に育てられた箱入り娘的な雰囲気がある。
「なあ、詩織ちゃんって、おとなしそうな顔して胸がでかいよな。Dカップはあるだろ」
 ハヤシが詩織のシャツの胸元を見ながら囁いた。
 元々スレンダーなので余計に大きく見えるというのもあるが、同学年の愛に比べて二回り以上サイズが大きい。体育の時間などは、体操シャツの中でたわわに弾んで、スケベな男子たちの好奇の的になっているのだ。学校には鏡魅羅(かがみ・みら)というグラマラスな女子生徒がいるが、それに負けていないのではないかというのがもっぱらの噂だ。
「女の子をそういう目で見るのはマズイですよ。とくに詩織は」
「スカしてんな。おまえだって普段からオカズにしてるくせにヨ」
「おかずって」
「してないわけないよな。あんだけ魅力的な女子が近くにいて」
「ああ見えて詩織を怒らせると怖いですよ。聞かれたら絶対殺されますよ」
「幼なじみは俺が守るってか」
「幼なじみとかそういうのは関係なく」
「じゃあ、もし俺が詩織ちゃんと付き合って、あの巨乳を揉みまくってしゃぶっても問題ないよな? 詩織ちゃんの処女は俺がもらうぜぇ」
 耳を疑うハヤシの宣戦布告に公人は絶句した。
 細い目でニヤリと笑っている。
「いっとくけど、詩織は先輩なんか相手にしませんよ」
「いまはそうかもな、へへへ」
「っていうか、めっちゃ嫌われてますよ」
「嫌い嫌いも好きの内っていうからな。詩織ちゃんをモノにするためならどんな手でも使ってやる」
 バチバチと火花が散る。
「二人ともなんの話をしてるの?」
 詩織が不思議そうにたずねる。
 まさか自分について、男同士の取り合いが発生しているとはまったく思わない。
「こっちの話だよ、こっちの話。なあ、相棒」
 ハヤシが公人の背中を叩いた。
 詩織の先輩でなければ一発殴ってやりたいと公人は思った。ケンカなら絶対負けない自信がある。
「そろそろ中に入りましょう」
「オッケー、いくいく!」

 休日ということもあり、園内は家族連れや若者たちでにぎわっていて、どのアトラクションも長い行列ができている。
「わぁー、いい天気でよかった」と、詩織。
 愛はベレー帽を片手で押さえて詩織の後をついて歩く。
「ほら、メグ。あそこにマスコットキャラクターがいるわ」
 詩織が指を差した先には、目つきの悪いコアラのマスコットがいる。
 群がった子供たちの相手をしている。
「詩織ちゃん、まって」
「広場でヒーローショーもあるみたい」
「それはいいかな……私、子供に間違われそう」
「絶叫マシーン・ビビール……悩むなぁ。ねえ、ジェットコースターに乗りましょう」
 詩織は愛を連れてジェットコースターの乗り場に移動した。
 ハヤシが公人の脇腹を肘で突いた。
「おい、ジャンケンしようぜ。勝った奴が詩織ちゃんと乗れる」
「いいですよ」
「恨みっこはなしだぜ」
「先輩こそ」
「最初はグー、じゃんけん」「ポン!」
 公人がパーで、ハヤシがグーを出した。
「よしっ! 勝った!」
 公人はガッツポーズをする。
「チッ!」
 ハヤシは悔しそうに舌打ちをした。
「詩織、俺と乗ろうぜ」
「メグはハヤシ先輩とね」
 前列に公人と詩織が、後列にハヤシと愛が並んで座った。
 10階建てのビルに相当する最高地点へゴトゴトと登って、一気にレールを滑り落ちる。
 詩織は思いっきり歓声をあげて、スリル満点のスピードを満喫した。
「すごくスリルあったね」
「俺はぜんぜん怖くなかったよ」
「うふふふ。我慢しちゃって。次はゴーストハウスに行きましょう」
「まるで子供みたいだな」
「ひさしぶりなんだもの。メグ、お化け屋敷は平気よね?」

 ゴーストハウスの前で、ふたたび公人とハヤシはジャンケンをした。
 二人ともかなり気合が入っている。
「おっし! また勝ったぞ!」
「くそっ。俺ってジャンケン弱いんだよな」
 ハヤシはがっくりと肩を落としている。
 お化け屋敷で、怯えた詩織と一気に距離を詰めるプランでいたのだ。
「詩織、俺たちが先に入ろうぜ」
「うふふ。公人は小さい頃お化け屋敷で泣いたわよね」
「昔の話だろ」
 公人はさりげなく詩織の手を握った。
 詩織の頬がほんのりと赤く染まる。
「メグちゃんは俺とペアな」
 ハヤシは愛に話しかける。
「あ、はい……」
「ホラー系は苦手?」
「……映画はわりと好きです」
「意外。俺がついてるから安心しなよ」
「はい」
「へへへ、中は暗いから、はぐれないようにくっ付いた方がいいよ」
 愛の肩に腕を回した。
 ぴったりと寄り添う。
「あの……ちょっと近すぎる……」
「デートなんだし、これぐらい親密なほうが盛り上がるじゃん」
「……」
 愛は顔を赤くしてうつむいた。
「くぁわあいいい」
 愛の初々しい反応にハヤシが鼻の下を伸ばしてデレデレとする。 
 公人と詩織がゴーストハウスに入った。
 間を空けて、ハヤシと愛が続いた。
 中では、驚いた詩織が悲鳴を上げて公人に抱きつくなどかなり盛り上がった。
 愛はハヤシにほとんど抱きすくめられるように怯えながら進んだ。

 昼食は、カフェテリアで4人でテーブルを囲んだ。
「メグちゃんって、こうして見ると小動物みたいで可愛いよね。なんか守ってあげたくなるタイプっていうか?」
「そんな……私なんて、詩織ちゃんに比べたら可愛くないです」
「その照れた姿も最高じゃん。彼氏、いないんだよね?」
「う、うん……」
「男性の好みのタイプ、教えてよ」
「えっと……思いやりがあって頼れる人とか」
「メグちゃんの彼氏に立候補しちゃおうかな」
「え……」
「年上は嫌?」
「年齢はべつに……」
 ハヤシは美樹原愛を質問攻めにしている。
 公人と詩織の2人はあっけに取られた様子で眺めていた。

 メリーゴーランドでは、詩織と愛が白馬にまたがって周回するのを公人とハヤシが外側から見守った。
 ぐるぐると周回するたびに、詩織は子供のような笑顔で手を振っていた。
 愛も打ち解けてきた様子で、ハヤシの呼びかけに笑顔で応えていた。
「メグちゃーん、こっち」
 ハヤシが周りの目も気にせずに大声で名前を呼ぶ。
「いいなあ、ああいううぶな子も」
「先輩は詩織狙いじゃなかったんですか」
「そのつもりだったけどさ。相手にされないんじゃ、どうしようもないだろ。それよか無垢なメグちゃんの笑顔に癒される」
「あっさりっすね」
「粘って詩織ちゃんにこれ以上嫌われるのも嫌だしな」
「詩織に振られたから美樹原さんに乗り換えるってことですか」
「べつに誰かに迷惑かけてるわけじゃないし、悪くないだろ」
「そうだけど……」
「なあ、女の子がメリーゴーランドに乗ってる姿ってメルヘンだよな」

 マスコットとの記念撮影をした後、4人で観覧車に移動した。
「俺はメグちゃんと乗るから、おまえは詩織ちゃんと乗れよ」
 ハヤシの思わぬ提案に公人は拍子抜けした。
 詩織のことをまだあきらめていないのではないかと思っていた。
 ハヤシは愛の手を引いて、さっさとゴンドラに乗り込んだ。
「どうしたの、公人」
「先輩は美樹原さんと観覧車に乗るってさ」
「ふーん。私たちも乗りましょう」
 ゴンドラがゆっくりと上昇をはじめ、眼下に園内の景色が広がる。
「見て、人があんなに小さい」
 詩織が喜んだのもつかの間、ゴンドラが不気味な音を立てて止まった。
「この観覧車、止まっちゃったみたい」
「えっ、本当? どうしよう」
 詩織の愛くるしい瞳が不安そうに揺れる。
 思わず、隣の公人の腕にしがみついた。
 やわらかなバストの感触が公人の肘に体温とともに伝わる。
(うお! 詩織の胸が……先輩の言うとおり、巨乳だな……)
 公人はゴクリと唾を飲み込む。
 詩織とゴンドラに乗ったのが自分で良かったと感謝していた。
「大丈夫だよ。すぐに動きだすって」
「うん……。でも、やっぱり怖いわ」
「ほら、止まってるぶんだけ、長く乗ってられるんだから得した気分でしょう」
「そ、そうだけど……」
「それとも、俺と一緒じゃやだ?」
「そ、そんなこと……。だって、私……」
 詩織が何かを口にしようとした瞬間、ゴンドラが動きだした。
 静かに下降をはじめる。
「あっ、動きだしたみたい」
「はははは……。よかったね」

 地上に降りると詩織はすっかり平静を取り戻していた。
「さっきは本当に怖かったね」
「それよりさ、さっき言いかけてた続きが聞きたいな」
「えっ、な、なんのことか忘れちゃった。そんなこといいじゃない」
 詩織は早口にその場をごまかした。
 公人は、もう少しだけ観覧車が止まっていてくれたらと悔しがった。
「メグは平気だったかしら」
 詩織は自分たちより先に観覧車に乗った愛のことを心配した。
 すこし離れた場所に、ハヤシと愛がいるのを見つけた。
 ハヤシが愛の肩に手をかけて、慰めるようにやさしく抱いている。
 愛は頬を赤く染めてうつむいていた。
 詩織でなくとも、なんとなくいい雰囲気であることがわかる。
「メグ、大丈夫?」
「う、うん……先輩がいてくれたから」
「へへへ、ゴンドラが停まったらメグちゃんがキャア!って抱きついてきたんだよな」
「あの時は、もう死んじゃうかもって思って……」
「先輩に変なことをされなかった?」
「ひどいなあー。詩織ちゃん。俺がそんなことするわけないじゃん」
「ごめんなさい、先輩。つい……」
「いいっていいって。メグちゃんはこの通り、無事だしさ」
「よかったわね、メグ」
「う、うん……」
 愛はうつむいてモジモジしている。
 なにか詩織に伝えたいことがありそうな態度だ。
「??」
「今日はそろそろお開きかな」
 ハヤシが時計台の時間を見ながら言った。
 空は夕焼け色に染まりはじめていた。
「もうこんな時間」
「電車の方向が同じだから、俺がメグちゃんを送っていくよ」
「えっ? ……先輩にまかせて大丈夫かしら……」
「詩織ちゃんは、そいつと帰るだろ。家が隣だし」
「う、うん……」
「じゃあ、そういうことで。またね、詩織ちゃん」
 ハヤシ先輩は美樹原愛を連れて遊園地を後にした。
「ほんとに行っちゃった」
「なにしてんだよ、俺たちも帰ろうぜ、詩織」
「今日はありがとうね、公人」
「べつに。俺は詩織とデートできてラッキーだったよ」
「うふふ。私も楽しかったわよ」
「先輩もこれで詩織のことをすっぱりあきらめてくれるだろ」
「そうだといいけど」
「詩織も見ただろ、美樹原さんのことを相当気に入ったみたい」
「でも、なんだか嫌な予感がするわ……」
 詩織はハヤシと愛が立ち去った方向を心配そうに見つめていた。
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