オディリックサブタ
作者:ブルー
公開
04. 勉強会
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 週末の夜――。

 詩織の部屋を、幼なじみの高見公人(たかみ・なおと)がおとずれていた。
 床にテーブルを置いて、そこに参考書とノートを開いて勉強会をしている。
 窓の外は家の灯りがともり、東の空には夏の大三角形が見えていた。
 
 詩織は耳元の髪をかきあげながら、シャーペンの先で問題の数式を指す。
「……等式の左辺をiについて整理して、xとyが実数だから」
「そうか。ここで連立方程式を解けばいいのか」
「他の問題もこれと同じ応用で解けるでしょ」
「詩織は教えるのがうまいな」
「うふふ。誰かさんの家庭教師をずっとしてきたおかげね」
「次の試験では、少しでも詩織の順位に近づけるように頑張るぞ」
「他の教科は平気なの?」
「現代文と世界史はいいとして、英文がなぁ」
「だめねぇ。すこし休憩にしましょう」
 詩織は床に座ったまま「んーー」と背伸びをした。
 自室ということもあり、水色をした薄手のスウェットと赤いランニングパンツといったラフな部屋着だ。
 詩織の部屋は清掃が行き届いていて埃一つ落ちていない。カーテンはピンクで、ベッドカバーもピンク、壁紙は白で統一されている。勉強机の上には辞書や参考書が並び、大きな鏡のついたドレッサーの他、窓際には観葉植物とベッドのわきには目つきの悪いコアラのぬいぐるみが並んでいる。壁には学校の制服がかけてある。
 詩織の部屋に入ったことのある男子は、父親を除けばいまのところ公人だけだ。
「おっと、消しゴムが」
 公人はわざとらしく消しゴムを床に落とした。
 拾うふりをしてテーブルの下をのぞき込むように身をかがめた。
 テーブルを挟んだ向こう側に、クリーム色のクッションに足を崩して座る詩織の下半身がある。
 ランニングパンツの隙間から、ピンク色のショーツが見えた。
(……ガードが緩いところがあるよな、詩織)
 色白の太腿がむっちりとして色っぽい。
「まだ見つからないの?」
「この辺に……あったあった」
 公人は拾い上げた消しゴムを詩織に見せた。
「やけに長かったわね」
「遠くまで転がっててさ」
「ふ~ん。ほんとかなぁ」
 詩織は何かを察したように疑いの目を向ける。
 公人は慌てて、テーブルに置かれていたコーラのグラスに口をつけた。
「今日は暑かったな」
「目が泳いでるわよ。今日はすごしやすい天気だったでしょ」
「ハハハ……そういえば、美樹原さんはどうなった?」
 気まずい空気を換えようと、公人は美樹原愛(みきはら・めぐみ)の話題を取り上げた。
「どうもこうもないわよ」
 詩織の表情が険しくなった。
「私が忠告しても聞く耳をもたないのよ。メグがあんな頑固だなんて知らなかった」
「もう1ヵ月か。美樹原さんが先輩と付き合って」
 愛がハヤシと交際をはじめて1ヵ月が経過した。
 詩織は何度となく交際をやめるように説得してきたが、愛は頑として聞き入れなかった。
 いままで詩織のアドバイスに逆らうことなどありえなかったのに。
「休憩時間になると姿が見えなくなるの。きっと私にないしょで先輩に会いに行ってるのよ」
「3年の教室に?」
「屋上とかかも」
「よかったじゃん。美樹原さんも幸せそうで」
「ぜんぜんよくないわよ!」
 詩織は目を吊り上げてムッとした。
「この間なんて、外泊のアリバイ作りを頼まれたのよ」
「美樹原さんが?」
「他に誰がいるのよ! こんなこと初めてよ」
「ハヤシ先輩って一人暮らしだよな」
「たしか隣町のマンションって聞いたことがあるわ」
「実家が金持ちなのか」
「そこまでは知らないけど……」
「美樹原さん、最後までやったのかな」
「やだ、公人。なにを考えてるのよ」
 詩織はまるで不潔な物を見たみたいに公人に軽蔑のまなざしを向けている。
 一方で、愛の制服のスカートが短くなったのが気になっていた。ちょっとまえは詩織と同じぐらいの膝丈だったのが、いまは膝上10センチぐらいに短くなっている。おそらく先輩の趣味に合わせているのではないかと詩織は考えている。
「どうにかして二人を別れさせる方法はないかしら。このままだとメグが傷つくのは目に見えてるわ……」
「気持ちはわかるけどさ。詩織は過保護すぎるだろ」
「私が先輩にメグを紹介したのよ。責任があるわ」
 生真面目な詩織はWデートに愛を誘ったことを後悔していた。
 可能なら時間を巻き戻してやり直したいと思っている。
「うーん……難問だな」
「ちゃんと考えてよ、公人」
「そういわれてもなぁ。いまの美樹原さんはこうだろ」
 公人は両手を目線の高さで前後に動かした。
「だいたい先輩も先輩だわ。ちょっとまえまでは、毎日私にデートしてくれデートしてくれって言ってたくせに、いまはメグちゃんが可愛いメグちゃんが可愛いばっかりなのよ。ほんと失礼しちゃうわ」
「ハハ。まるでハヤシ先輩が美樹原さんに乗り換えたのを怒ってるみたいだな」
「そんなことあるはずないでしょ。私は先輩の無神経さにあきれてるのよ」
 イライラとした口調で否定する。
 詩織にも学校で一番の美少女としての自尊心がある。
 この間、ハヤシ先輩に「メグちゃんの方が、女の子らしさがあって性格も従順で魅力的だね」と言われた時には正直カチンと来ていた。まるで自分が愛よりも下の存在のように扱われた気がしたのだ。詩織にとって生まれて初めの経験だった。
(なによ、先輩は女の子なら誰でも良かったのね……メグのために絶対に別れさせないといけないわ)
 詩織はムスッと不機嫌そうな顔をしている。

 その日は遅くまで二人で考えたが、結局、良い解決策は見つからなかった。
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