オディリックサブタ
作者:ブルー
公開
08. プールデート
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 きらめきプールは電車に乗った先にある、夏季限定のレジャー施設だ。
 園内には、流れるプールや巨大なウォータースライダー、人工的に波を作り出すプールなど、いろいろなプールが設置されていて、夏休みに入ると近隣の若者たちでごった返す。

 土曜日の午前――。
 朝から真夏のような陽ざしが照りつけ、気温はぐんぐんと上昇していた。
 詩織がゲート前に到着すると、サーファーっぽい格好をしたハヤシが一人でいた。
 詩織を見て「よおっ」と片手をあげる。
「おはようございます」
 詩織はノースリーブのシャツにチェック柄のボックススカートで、涼しさを感じさせる服装。肩にはアディダスのプールバッグを提げて、黄色いヘアバンドをしている。
「あちーあちー。立ってるだけで汗が出る」
「予報だと35度まで上がるらしいですよ」
「ヤバいな。南国かよ」
「あの、メグは?」
 詩織は愛の姿を探した。
「それがさー、メグちゃんは体調不良で来れないってさ」
「そうなんだ」
 詩織は残念そうな顔をした。
「公人はまた遅刻かしら」
 ついでに起こしてくればよかったと思っていると、詩織のスマホにメッセージが届いた。
「公人からだわ」
 詩織はスマホを指でタッチした。

<<いまどこ?
>>わるい。今日は行けなくなった。
<<どうして?
>>急に部活の先輩に呼び出された。
<<休日なのに?
>>へんだよな。
<<楽しみにしてたのよ。
>>今度、埋め合わせする。プール楽しんでこいよ。
<<わかった。練習がんばってね。

「なんて?」
 ハヤシはへちまみたいな顔で心配そうに尋ねる。
「公人も急用で来られないみたい」
「ありゃりゃ、残念だな」
「がっかり……どうしよう」
「俺たちだけでプールに行こうぜ。暑くて死にそう」
「でも……メグもいないんじゃ……」
「ここまで来て、チケットがもったいないよ」
 詩織はプールバッグの紐を握ってむずかしい顔をする。
 夕子の言葉を思い出す。
 これは愛からハヤシを引き離すチャンスかもしれない。
「せっかくだし、そうしようかしら。公人も楽しんでこいっていってたし」
「へへへっ、そうこなくっちゃ」
 ハヤシは二ヘラと笑う。
 詩織の気が変わらないうちに入園ゲートに並んだ。


 プール客が行き交う、インフォメーションセンターの前――。
 先に海パン姿になったハヤシが待っている。
 更衣室で、水着に着替えた詩織が姿を見せると、「ヒュ~」と口笛を吹いた。
 三角形の生地が3つ並んだピンクのビキニ姿。晴れ渡った青空をバックに、色白の瑞々しいプロポーションを惜しげもなく披露している。育ち盛りのバストはいまにもこぼれそうだ。
 公人を驚かせようと大人っぽい水着を選んでいたのだ。マイクロビキニほどではないが、真面目な詩織にしてはかなり冒険した。
「どうですか、この水着」
「ゲキマヴ。腰の紐が超セクシー。まるで下着みたい」
「……やだぁ」
 詩織の顔がサッと赤くなった。
「そんぐらい似合ってるって意味。マジでグラビアモデルかと思った」
「メグと比べてもですか?」
 詩織は当てこすりで尋ねた。
 あの日のことを根に持っている。
「メグちゃんは子供っぽいワンピースだろ。あっちはどこにでもいる一般レベルで、詩織ちゃんは日本で一番イケてるJKだよ」
 またもやハヤシはデレデレと鼻の下を伸ばしている。
(調子のいいことばっかり……私が何も知らないと思っているのね)
 内心あきれているが、褒められると素直にうれしい。
 周囲の男性客もスタイル抜群の詩織のビキニ姿を、どこの芸能人が来たのかと思って眺めている。
 
「プール中の注目の的じゃん。どこで買ったの、それ?」
「駅前のデパートで。私は普通の水着がよかったけど、店員さんに勧められて」
「こっちが断然いいよ。普段とギャップがある」
「あんまりジロジロ見ないでください。はずかしいわ」
「見るなっていわれてもなァ。股の食い込み具合もエロさ満点だな」
「セクハラですよ」
「ちがうよ。セクハラっていうのはこういうのだろ」
 ハヤシは手を伸ばして、詩織のお尻にタッチした。
「きゃあっ!」
 詩織は飛び上がって両手で後ろを守る。
「かわいらしいお尻を見てたら右手が勝手に」
「また……私、怒りますよ」
「怒った顔も最高にかわいぃ~」
「そうやってごまかす」
 相手が先輩なので怒るに怒れない。
 それに夕子に吹き込まれた作戦を実行するためにはこれぐらいのことは覚悟の上だ。
「ポロリがあったりして」
「バカなこといってないで、はやく泳ぎましょう」
「へへっ。俺と詩織ちゃんの初デートだ。学校の奴らが知ったらうらやましがる」
「デートなのかなぁ」
「堅いこといいっこなし。詩織ちゃんも1日、俺の彼女のつもりで頼むぜ」
 愛という恋人がいるのによくもヌケヌケと、と思う。
 グッと我慢した。
「……今日だけですよ」
「うっし、泳ぎまくるぜぇ!」


 一周400メートルのドーナツ型をした流れるプールでは、詩織はビニール製のイルカに掴まって、ハヤシがそれを引っ張って泳いだ。バシャバシャと水をかけあう。
「先輩っ、きゃーーっ!」
 巨大なウォータースライダーを、詩織が水しぶきをあげて勢い良くすべり降りる。スピードのあまり、足がぱっかりと開いている。
 派手に着水した。
「ああ、楽しかった」
 頭までずぶ濡れになり、詩織の素肌をキラキラと水滴がしたたる。
「まるで子供みたいにはしゃいでる」
「ごめんなさい。一人で遊んじゃって」
「スマホで撮っておけばよかったな、いまの姿」
「先輩はすべらないんですか?」
「海パンですべったらケツがTバックになりそう」
「ほんとは怖かったりして」
「詩織ちゃんこそ、水着ずれてない?」
「だいじょうぶみたい」
「ひそかに期待してたのになぁ」
「うふふ。残念でした」
「次は波のプールに行こうぜ」
 人工的に波を作るプールでは、支えるようにしてハヤシが詩織の体に腕を回した。
 歓声とともに高さ1メートルはある波が押し寄せる。
「大きい波が来たぞ」
「こわいっ」
「溺れないようにしっかり掴まれよ」
 水圧に押されるようにして、自然と抱き合うような格好になった。
 夏の解放感もあり、まるで本当の恋人同士のようにハヤシと密着する。
「すごい波だわ」
「耳に水が入った」
「大丈夫ですか、先輩?」
「泳ぎすぎて足が吊りそう」
「私も疲れちゃった。すこし休憩しましょう」
「あっちに休憩場所があるよ」
 ハヤシは詩織の手を引いて、プールの喧騒から離れた有料席に移動した。
 大きなビーチパラソルと、横になって休める白いサマーベッドがいくつも並んでいる。

 詩織はプラスチックボトルに入ったUVカットのスキンケアミルクを取り出した。テレビCMで流れている有名な製品だ。泳いでいるうちに日焼け止めクリームが落ちてしまった。
「俺が塗ってやるよ」
「えっ、けっこうです」
「遠慮すんな。せっかくの美肌がシミだらけになったらどうすんだ」
「じゃあ、背中だけ」
 スキンケアミルクをハヤシに渡して、詩織はサマーベッドにうつぶせになった。
 背中にかかった髪がじゃまにならないよう片手で横にした。色っぽいうなじを見せる。
「夏の紫外線は女の子にとって大敵だからな。っと、その前に」
 ハヤシが、背中にあるビキニの紐を指でつまんでほどいた。
「ちょっ! 先輩っ!?」
 あわてて詩織が半身を起こした。
 片腕でビキニを押さえて胸元を隠している。
「塗るのに紐がじゃまだろ」
「でも……」
「いいからいいから。ついでに下の紐も」
「そっちはダメです」
 ハヤシが腰の紐に指をかけようとしたのを、詩織は逆の手で素早く守った。
「まったく……油断も隙もないわ」
「チェッ。あとはまかせろよ」
 ふたたび詩織にうつぶせになるよううながす。
 ボトルのキャップを外して、乳液を詩織の背中に垂らした。
「つめたいっ」
「へへっ、手を使って伸ばすぞ」
「くすぐったいです」
「詩織ちゃんは背中が感じやすいのか」
「んっ……先輩がふざけてるから」
「塗りムラがないようにしないとな。肌がすべすべだな」
 ハヤシは両手を使って乳液を薄く伸ばして広げる。
 うつ伏せになった詩織は背すじがムズムズとするように肩を震わせる。
(先輩の手つき、なんだかいやらしいわ)
 腰の裏側から背すじに沿って乳液を肌になじませる。
 ハヤシの手が、だんだんと横にズレてきた。
 あばら横から脇へとせり上がり、はみ出ている横乳に軽くタッチした。
 指でプニプニと押して塗りたくる。
「……せ、先輩……脇腹はくすぐったいです」
 くびれた腰がモゾモゾと動く。
 ビキニショーツに包まれた小ぶりなヒップが、ハヤシの目の前で美味しそうに揺れている。
「しっかり塗らないと、おっぱいに水着の日焼け痕が残っちゃうぞ」
「ちょっと……指が当たってるわ」
「横乳がやわらけぇー」
「だめです、もう」
「脇下もツルツルして綺麗だな」
 調子にのったハヤシの指先がビキニの布地との隙間に滑り込む。
 乳首の至近距離をかすめた。
「あんっ」と、思わず声が漏れる。
 詩織はゾクゾクした。
「あれ、顔が赤いよ。どうかしたのかな?」
「な、なんでもありません」
「ついでだし、下半身も塗ってやるよ」
「も、もう十分です。あとは自分でやります」
 これ以上はマズイと思った詩織は手で胸元を隠すように体を起こした。
 背中向きにサマーベッドに座って、両腕を後ろにしてビキニの紐を結びなおした。
 ようやく落ち着いた。

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 昼過ぎ――
 利用客が増えてきたこともあり、詩織とハヤシは早めにプールを後にした。
「今日は楽しかったです、先輩」
 私服姿に戻った詩織は、荷物の入ったプールバッグを肩に提げて、笑顔で礼を口にする。髪はまだしっとりと濡れている。
「これからどうする?」
「私は図書館に寄って帰るつもりです」
「ええー。そりゃないよ。お楽しみはこれからなのに。時間はあるだろ?」
「とくに予定はないけど」
「俺の部屋に遊びにこない? こっから近くなんだけどさ」
「先輩の部屋ですか?」
「図書館はいつでも行けるだろ」
「まあ……」
「ジュースぐらい出すよ。つーか、早くクーラーのある場所に行かないと熱中症になるぜ」
「でも……先輩って一人暮らしですよね」
「だれにも邪魔されずにゆっくり話せるじゃん。もしかして警戒してる?」
「べつにそんなことないけど……」
「ないない。俺にはメグちゃんがいるじゃん。じつは詩織ちゃんに見せたいものがあるんだよね」
「私に見せたいもの?」
「6月の体育祭の写真なんだけどさ。現像に出してたのが返ってきてて」
「わざわざ写真に?」
「そっちのほうが盛り上がるでしょ。レトロっぽくて」
 最近、詩織の周りでも写真がリバイバルブームとして流行っている。
 詩織もスマホの写メよりは、ちゃんとした写真としてアルバムに残したいタイプだ。
「メグちゃんに撮ってほしいって頼まれてたんだけどさ。どれがいいか選んでよ」
 ハヤシの口ぶりから、なんとかして詩織を部屋に連れ込もうという意思が感じられる。
 なにをたくらでいるのか見え見えだ。
(二人きりになって、いやらしいことをしようと考えているのね……先輩との会話をスマホに録音できれば……)
 証拠さえあれば、愛とハヤシを別れさせる決定打になるはずだ。
 危なくなったら夕子に連絡して助けに来てもらえばいいと、詩織は考えた。
「……写真を見たらすぐに帰りますよ?」
「もちっ!」
「じゃあ、ちょっとだけ先輩の部屋に行ってみようかな」
 詩織はハヤシの部屋に寄るのをOKした。
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