堕ちた勝利の女神
作者:しょうきち
公開
14. EP3―⑤ ~非日常への誘い~
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 沙希の去った後の事務所では、今しがた強かに殴られた頭部を擦りながら、シンがソファでコーヒーを飲んでいた。まるで実家のような寛ぎぶりである。
「あー、マジ痛って。ねえ、ショーさん……。これでも商売道具なんすから、傷跡残ったりしたら困るんすよ。本気でブッ叩き過ぎっす」
「あぁ? うるせえっ、こういうのはリアリティが大事なんだよ、リアリティがな」
 ショーと呼ばれた金髪の男は、本名を中田紫陽(なかた・しよう)とす言った。名字はありきたりだし、名前は微妙に呼び辛いのでショウ、 さらに転じてショー、ショーさん等と呼ばれている。
 ショーは広域暴力団三次団体、故那見組の若頭であり、都内各所における風俗店の元締めをしている。 同組組長に次ぐ役職の大物でありながらまだ28歳と年若く、強面な見た目に反して自身を慕う者には気前よく奢ってくれるなど面倒見もいいので若手の構成員、準構成員たちからは兄貴分として慕われていた。
 シンにとっては最重要な取引相手である。
 これまで幾多もの女をショーの組傘下の風俗店へ商品として卸している。
 単に最初から風俗の仕事に興味があるような擦れた女を案内するばかりではなく、街で歩いている普通の女に声を掛け、言葉巧みに風俗の道へ誘い込むようなこともやってきた。
 そしてショーからの要求に基づき、特定のタイプの女を狙って風俗に嵌める事もある。
 ショーからのオーダーは人妻系から巨乳系、ロリ系に至るまで千差万別である。その度にいちいち眼鏡に叶いそうな女を探して説得して……といったプロセスを踏んでいるとあまりに時間がかかって面倒な上、狙った鉄砲が当たるとも限らないため、近頃のシンは普段から予め、数多くの様々なタイプの女をナンパで引っ掛け、セフレとして囲っている。どの女も二人きりの時は甘い言葉とセックスで極上の気分を味わせてやっているが、時が来たら順次風俗に売り飛ばす予定の女たちである。
 ここ最近、ショーから特に強く要望されているのは純朴そうな、一見風俗の仕事などとてもしそうにない女であった。所謂『素人系』を謳う風俗店の新規オープンに向け、眼鏡にかなった女を集めているためである。
 だが、こうしたタイプの女は中々見つからない。
 いや、見つかる事は見つかるが、とてもではないが普通に誘っても風俗の仕事などに足を踏み入れたりはしない。踏み入れたとしても初日の体験入店か、持って2~3日程度で二度と来なくなる。
 そうした事態を防ぐためには、あくまでその女自身の意思で風俗の世界へ飛び込んでゆく(と、思い込ませる)シチュエーション作りが肝要である。
 女の扱いにセオリーなどというものはないが、シンが女を風俗業に嵌めるときよく使う手段としては、自身に惚れさせ、依存を深めさせ、自らシンのために身体を売るように仕向ける事であった。ホストがやる色恋営業に近い。
 話の切り出し方やタイミングについては女の性格をよく把握し、慎重を期する必要がある。そのためには短くて数ヶ月、長ければ年単位で付き合って女の家族関係、交遊範囲、収入状況を洗い上げ、絶妙なタイミングを図るのだ。
 手練手管を用いてシン以外に依存先が無い状況を作り上げ、仕上げに「お前だけが頼りなんだ」とでも甘く、優しく囁けばチェックメイトである。


 元々大の女好きであり、普段から不特定多数の女をナンパで引っ掛けて回っているシンであったが、いつものようにナンパして処女を奪ってヤリ捨てた沙希が高校野球界隈では有名な美少女マネージャーである事が分かったのが、8月の中旬あたりの事である。
 暇潰しに事務所のTVで夏の甲子園を観戦していたところ、雑談がてら各出場校の女子マネージャーの顔面レベルの話になり、話は惜しくも甲子園出場を逃した悲劇の高校の女子マネージャーにも及んだ。
 半グレやヤクザ者といったイリーガルで粗暴な男達が集まると話題は「おっ、あそこのチア、パンツ見えたぜ」とか「応援席のあの娘、ブラ透けてんぞ」といった風物詩的な話から、「あそこの女子マネ、絶対エースのチンポを咥えこんでる」、「あの高校は少数精鋭だし、レギュラーはみんな穴兄弟に違いない」といった猥談に及ぶ。
 軽口がてら、シンが「ああ、きらめき高校の女子マネなら処女じゃないすよ。俺が初ハメ中出しキメてやりましたからね」と嘯くと、ショーから「おおっ、マジかっ!? よしっ、シンっ、 その娘、カタに嵌めて来いっ!」と命じられた。
 沙希を堕とすに当たっては慎重を期すため、再び声を掛ける前に、在籍高校やクラスのほか、登下校のタイミングや自宅住所、交際相手の有無などといった、事前の下調べを済ませた上で声を掛けることにした。
 下調べが済んだタイミングで、丁度新宿のタワーマンションで定期的に開催されるセックス・パーティがあったため、これ幸いと、シンはこのパーティを将来の風俗堕ちに向けての試金石に使った。
 セックスへの抵抗感の有無、不特定多数の男との性行為への抵抗感の有無、今日初めて出会ったばかりの男との性行為への抵抗感の有無(尤も他ならぬシン自身がナンパ当日即ハメに成功していたので、この点は問題ないと見ていた)といった点の確認である。
 テストの結果は想像以上に好感触であったと言える。今時のJKらしく性的行為には興味津々だし、感度もいい。結果的にではあるがシンに惚れさせる事にも成功した。ある意味期待以上の成果である。
 しかし、このまま普通に温い男女交際を重ねていては風俗堕ちなどは望めない。一計を案じる必要があった。
 シンの見立てでは、両親に愛されて育ち、友人や仲間達に恵まれた高校生活を送ってきた沙希を風俗に嵌めるには、自身に惚れさせるだけではまだ足らず、まずはこれら沙希の依って立つ基盤を粉々にしてやる必要があると感じていた。
 高校卒業後は家を出て、親には秘密の同棲を始めるよう促したのもその一環であるし、少しずつ親友と疎遠になるようそれとなく誘導していったのもその一環である。
 人を疑うという事を知らない沙希に対しては、これらはシンの予想以上の成果をもたらしていた。シンの見立てでは、既に親や親友からは精神的には独り立ちしているように思われる。
 今日の事故は、シンとショーの二人で予め練っていた計画であり、車のキズは壁に擦って前々から傷付いていた箇所である。この計画、準備だけは前々から進めており、実行に移すタイミングを待っていたところであった。
 今回の一件の最終目的は、沙希に自分の意思で体を売らせるよう仕向ける事である。一般に女子高生の頃から援助交際やパパ活に手を染めている女は、18歳を迎えると本格的に風俗デビューすることが珍しくないし、JKコスプレ系を謳う風俗店やAV業界は、こぞってそういった少女に目を付け、声を掛ける。
 高校卒業までに身体を売って大金を稼ぐ蜜の味を徹底的に覚え込ませ、将来的にはショー傘下の系列店で働かせることを目論んでいる。ピンサロかデリヘルか、それともソープランドか、どういった業種で働かせるかはショー次第ではあるが。
 思いやりがあって献身的な沙希なら、きっと売れっ子風俗嬢になれるだろう。そして売り上げの一割がシンの懐に入る目算である。
 沙希よりドラフト指名記念パーティの一件について聞かされたときに、この機を利用するしかないと脳裏に閃きが走った。この野球部の一大イベントをすっぽかさざるを得ない状況を作り上げる事によって、野球部からも精神的に切り離させる。そうした目論見である。
 
 シンの向かいのソファにどっかと座ったショーは、懐からタバコの箱を取り出した。一本取り出し口元へ持っていくと、シンが間髪いれずにライターに火を点して差し出していた。
「ヒヒヒッ、シンよぉ。お前の女、相当ビビってたなあ。マジで殺されるとでも思ったんじゃねえの?」
 ケラケラと無邪気に笑い、煙を吐き出しながらショーが言った。
(けっ、よく言うぜ……。俺だってヒヤヒヤしたっつーの……)
 身内からは慕われている一方、ショーは酒に酔うと他人によく暴力を振るっていた。その対象はそのときの気分によって奢ってやっている部下や後輩であったり、堅気の店員であったりもする。シンもビール瓶で額を割られるなど洒落にならない怪我を負わされたことがあるし、酷いときは女が相手でも殴る。
 ほんの少し機嫌を損ねただけで、大した理由もなく半殺しにされた者は片手では済まない。これまで警察沙汰になった事が無いのは奇跡と言ってもいい。
 だが、その危険極まりない暴力性がこの稼業においてはなによりの効力を発揮している。素人相手には見た目だけで充分な威圧感だし、玄人相手なら噂が広まった時点で勝手に一歩引いてくれる。
 ショーが沙希の頬を張った時は、内心気が気では無かったのである。事前の打ち合わせにない行動を取られたという事もあるが、万が一沙希の顔に傷跡でも残ったら元の木阿弥だ。
 決して機嫌を損ねてはいけない最重要な取り引相手でありながら、シンはこの無軌道な暴力性にだけは辟易していた。
「でもよう、これでこっちの目論見どおり援交に手を染めてくれるもんなのか? 彼女からしたら金が必要ってだけの事だよな? 親に泣き付くとか、貯金下ろすだとか、どう出られるかは分かんねえんだろ?」
 煙草の煙をシンの方に吹き掛けながら、ショーが尋ねた。
「……ごほん、それなら大丈夫っすよ。親に頼るのはあり得ないっす。俺と付き合ってる事も喋って無い筈っすからね。動かせる貯金額なんかもリサーチ済みすから。それに、あとひと押しするために、保険は打ってますからね」
「保険?」
「うっす。こないだ街で引っ掛けた、おもしれー女っすよ。あの娘も確か、きらめき高校って言ってたかな」
「ふーん。よく分かんねえが、お前がそう言うなら大船に乗ったつもりで待っててやるよ。だが、シクった場合は……分かってるな?」
「お、脅かさないで下さいよ。……まあ、果報は寝て待ってて下さいよ。沙希のヤツがここに戻ってくるのは、大体8時くらいになると思いますんで」




「あれれ~、虹野さんじゃーん、どしたの? こんなとこで」
 駅舎入口前のミニ広場で懊悩としている沙希に対し、背後から呼び掛ける声があった。
 振り返った先にいたのは、きらめき高校の同級生、朝日奈夕子である。
「あ、朝日奈さん!?  朝日奈さんなの?」
「改札出たところで、なーんか見た顔かなって思ったから声かけちゃった。で、どしたの? ここ、結構きらめき高校から遠いし、虹野さんの家とは反対方向だよね?」
「あ、朝日奈さん……。私、私……う、わぁぁん……」
「ちょ……ちょっ、虹野さん……。えと、とりあえずさ、話、聞かせてよ。どっか、その辺のサ店でも入ろうよ?」
 以前新宿のタワーマンションで行われたプロ野球選手相手のセックス・パーティの中で出会って以来、この人懐っこい同級生は同類項めいた何かを感じ取ったのか、よく沙希に話し掛けて来るようになっていた。
 学校帰りに喫茶店に立ち寄り、何度か一緒にお茶したこともある。未緒と少しずつ疎遠になっていったのとはちょうど対照的であった。
 他の誰にも話した事の無い彼氏の話も、夕子にはグイグイと押された結果、名前こそ伏せてはいたが、つい馴れ初めや性生活について話してしまっていた。
 学校をサボりがちになってきていたのも夕子の影響である。下校時に喫茶店に立ち寄った際、しつこく「彼氏さんどう? 不満とかない?」と聞かれ、「んー、特にないけど、強いて言うなら……、会いたいときに会えない事かなあ……。あ、ほら、不満って程不満って訳じゃないけと、学校があって平日日中から会ったりは出来ないから」と返したら「なぁんだ、それならガッコ、サボっちゃえばいーじゃん。どうせ出席日数なら足りてるんでしょ?」と言われたのがきっかけであった。


 現在地である神泉駅は、渋谷から京王井の頭線に乗り換えた先の隣駅にあたる駅ではある。駅から北東部にはラブホテル街が広がっており、オフィス街から程よい近さでもあるためデリヘルを始めとした派遣型風俗や不倫、そして援助交際やパパ活などにもよく利用されている。
 駅から程近い場所にある喫茶店に、沙希と夕子は入った。開業30周年を数えるレトロ風喫茶であり、客層も裕福そうな恰幅のいい中高年が目立つ。
 店内は全席喫煙可となっているらしく各テーブルには灰皿が置かれており、煙草臭が鼻についた。
「で、何があったのか教えてくれる? 虹野さん」
 ブレンドコーヒー(680円(税込、おかわり無料))を飲みながら夕子が言った。
「話せば長いんだけど。ええと……」
 沙希は先程あった事の顛末を話した。
 ほんの数時間前はいつもの日常を過ごしていた筈なのに、今置かれている状況はあまりに現実味が無い。脳内が未整理のまま取り留め無く話し続けていた為、ちゃんと意味が伝わっているか不安なところがあったが、夕子は沙希の話を遮ること無く、一々神妙そうな顔で頷いている。
「……と言うことがあって、もう、私、どうしたらいいのか……。100万円なんて大金用意出来ないし、このまま逃げ出したりしたらシン君が……」
 沙希自身、夕子に話している内に頭の中が整理されてきたところであった。そう、要は何とかして100万円を用立て、シンを救い出すのか、シンを見捨てて二度と会わない事(この場合、シンは命すら危うい)とするのか、という二択が現在沙希に突きつけられている状況なのである。
 是非はなかった。
 助けが必要なら、自身を求められているなら、より強く求める声の元へ、自分自身を顧みずに向かう。それが虹野沙希という人間なのである。
 沙希は命の危機に瀕しているシンを助ける決心を固めていた。残る問題は、金の工面をどうするかという点である。
 しかしそこまで話し終え、また心中でシンを救い出す為の決心を固めていたとき、気付けば先程まで真剣な面持ちで話を聞いていたように見えた夕子は、猫のようにくりくりと目を輝かせ、悪戯っぽい微笑を浮かべていた。基本的に温厚な沙希ではあるが、さすがに心中にムッとする気持ちが沸き起こる。
「あ、朝日奈さん。こっちは真面目に話してるんだけど……!」
「まあまあ、虹野さん。なーんか、聞いてて羨ましくなっちゃってさ。虹野さんって部活引退しても、やっぱり虹野さんなんだなぁって。以前は野球部のみんなだったけど、今はその彼氏さん? 『運動部のアイドル』虹野さんにそんなに想って、尽くしてもらえるなんて、そいつらってみんな幸せ者だよねぇ」
「朝日奈さん、今は切羽詰まってるの。そんな事言ってる場合じゃ……!」
「100万だっけ? 何とかなるかもよ」
「だから……、えっ!? 今なんて言ったのっ!?」
「だーかーらー、お・か・ね。絶対って訳じゃないけど、100万くらいなら何とかなるかもしんないよ」
 夕子はあっけらかんと言った。
「で、でも凄い大金なのよ? そんなお金、どうやって!?」
 沙希の質問に対し、夕子は一呼吸置いた。一瞬伏せた目に影が差したような気もしたが、気のせいだろうと思うことにした。何より、そんな細かいことを気にしている余裕がなかった。
「ウフフっ、ねえ、虹野さん。『パパ活』って知ってる?」
「パパ活?」
「そ。パパ活。聞いたこと無い?」
「年上のおじさんとご飯食べたりして、お金もらえたりするっていう?」
「そ、そ。一緒にご飯食べたり、デートしたりしてお小遣いもらえるの。結構みんなやってるよ? あたしも超高いブランド物の鞄や財布プレゼントしてもらったり、こないだなんて海外旅行連れてってもらったりしたもん。虹野さん可愛いし、お願いすればいっぱい援助してもらえるかもよ?」
 夕子の話を半信半疑で聞いていた沙希であったが、確かによく見ると、夕子の持つバッグや財布は女子高生の財力で持つには似つかわしくない海外ブランド品で固められていた。
 100万円という金額はただの女子高生である沙希にとってはテレビ番組の賞金等でしか見たことも聞いたこともない現実味の無い大金であったが、海外旅行に連れて行って貰ったという話が本当なら、100万円をポンと出してもらえるかもしれないという話も俄に現実味が生まれてくる。
 ちなみに海外旅行の相場は、韓国やタイ等の近場であれば航空券+ホテル代で10万円弱から、ヨーロッパや北米となると、地域や直行便の有無にもよるが概ね2、30万円からが相場である。2人分の必要金額は当然この二倍となる。
 絶望的な状況下から、一本のか細い糸ではあるが、状況を打開する可能性を持ちかけられたところである。沙希の思考回路は、その糸を手繰り寄せる事のみに誘導させられていた。




 パパ活についてあくまでカジュアルに説明してみせた夕子であったが、ある重要な事項を沙希には敢えて伏せていた。それは、高額な報酬やプレゼントを惜し気も無く与えてくれるようなパパは、漏れなく肉体関係という女として最も大事なものを要求してくるということである。
 ブランド物や海外旅行をポンポンプレゼントしてくれるパパは、求めてくるセックスの変態度合いも激しい。
 懇意にしているパパの一人に今年の始め、二泊三日のグアム旅行に連れていって貰ったときは夜のビーチで寝る間も無く夜通しセックスしていたためまともに海水浴や観光などしている暇は無かったし、別のパパに昨年、誕生日プレゼントとしてドルガバのミュールを貰ったときは、多目的トイレに呼び出されてイラマチオをさせられた。
 セックス自体に抵抗感は特段無い夕子であったが、トイレで精飲させられたときは流石に胃がムカムカしたものである。
 ファッション雑誌やTVの流行番組からそうした旅行やブランド物が無性に欲しくなり、その度にパパにおねだりしてそれらを手に入れたり、旅行に連れていって貰ったりしていた夕子であったが、不思議な事にそうして手にいれた旅行体験や流行グッズは、手に入った瞬間に夕子の興味感心を失わせていた。
 そして、新たな流行やブランド物などを追い求めてパパ活や援交を繰り返し、手にいれた瞬間また飽きる。
 他の多くの生徒たちが勉強やスポーツに青春の炎を燃やすきらめき高校の三年間において、夕子はそうしたひたすらに爛れた青春を送っていたのであった。
 そのように歪みきった貞操観念の根底には、これまでの人生において共働きの両親から小遣いだけ渡されてあまり構って貰えずに育てられた寂しさがある。
 中学の頃から放課後は街で遅い時間まで遊んで回っていた夕子であったが、そのような遊び方をしていては毎月の小遣いが尽きるのも早い。
 また、繁華街を隅々まで歩き回っていると身体を売れば気軽に大金が手に入るという危険な誘惑に触れる機会も多い。
 だから、高校に入学してすぐに援助交際やパパ活に手を出したのは自然な流れであったといえる。
 とある夏休み中の暑い日、いつものようにナンパ待ち目的で露出度の高い服装で街を闊歩しているときに声を掛けてきた男がいた。
 名前を吉野真一といった。
 普段は中高年の男にばかり抱かれており、金の無い同年代~数歳年上程度の近い年代の男は歯牙にも掛けていなかったが、何故か惹かれるものがあった。同類項めいた何かを感じていたのかもしれない。顔はまあまあ好みのタイプのイケメンではあったし、何より年の割に金回りの良さを感じさせるところが良かった。
 結果、その日の内に肉体関係を許し、以降も時々呼び出されては抱かれていた。
 そんなある日、ピロートークの最中に夕子の高校生活についての話を聞かれた。
 学校行事や部活動、人気のある生徒や先生の話等、様々な話をしたが、特に吉野が食いついてきたのは近年大躍進を遂げた野球部の事であった。
 野球に興味の無い夕子からすれば、きらめき高校野球部が勝とうが負けようがどうでもいい事であったが、話題が『運動部のアイドル』として有名なマネージャーの虹野沙希の事に及び、彼女はああ見えて援助交際に興味を持っていると聞かされた際には耳を疑った。
 「疑うなら実際見てみるといい」と言われ誘われて参加した新宿のタワーマンションで行われたセックス・パーティでは、言われたとおり確かに沙希がやって来たのである。
 夕子がそうであるように、このパーティに参加している者は男も女も金とセックスにしか興味の無い人間だらけである。
 真面目そうな顔をしてカマトトぶっていながら、野球部の男子たちにチヤホヤされている沙希に対しては、これまで少なからず(やや一方的に)反感を持っていたが、一気に親近感が湧いた瞬間であった。
 


「朝日奈さん。それで……その、パパ活……。わたしにも出来そうかな?」
 その言葉を聞いた瞬間、夕子の顔には妖しい笑みが浮かんでいた。
「うーん、でも、やっぱり虹野さんには厳しいかな。だって、超沢山お金くれるパパってさ、必ず求めてくるもん」
「な、何を……?」
「セックス」
「んぐっ!? ゴホッ、ゴホッ……」
 一瞬、コーヒーを吹き出しそうになった沙希であった。むせて咳き込む。そんな沙希を見据えながら夕子は続けた。
「パパ活やってるおじさんってさ、みんなウチらの親かそれ以上とかのいい歳なのに、JKを彼女みたい連れ回して、そんでもってガチの彼氏彼女みたくセックスしたくてたまらないんだってさ。超ウケるよね? 虹野さん、彼氏以外の人とさ、そーゆーキモいおじさんとセックスするとか無理っしょ?」
「……そう、かも。彼以外と、したこと無いし……」
「そうよね。彼氏にバレたら、何て言われるかな? オトコってみんな独占欲強いし、彼女が身体売ってるってバレたら、嫌われちゃうかもよ?」
 夕子の言葉には真実味があった。確かに以前、シンとのピロートークの中で、野球部エース・市川との秘密特訓の話をしたときは物凄い剣幕で「二度と俺の前でっ、他の男の話なんてすんじゃねえぞ……!」と凄まれた。
  いくら彼氏の為とはいえ、別の男に抱かれる事を喜んでくれるような人間などはいないであろう。
「……でも、でも……! 今は本当にっ、命の危機なのっ! 私のせいで今もヤクザに捕まって監禁されてるのに、私の事だけは逃がしてくれたの。私の事はどうなったっていい。きっと分かってくれるわ」
「ふふ、そこまで言うならいーよ。紹介してあげる。実はね、これから『パパ』に会うとこなの。何かどっかの会社の社長さんしてるとかで、羽振りのいい人よ。沙希ちゃんも会わせてあげるから、ちょっと待ってて」
 そう言うと夕子はスマートフォンを取り出し、一通のメッセージを送信した。
 程なくして、夕子のスマートフォンから着信を知らせる電子音が鳴った。
「あ、来た来た。なになに……あ、虹野さん。『是非連れてきてよ』だってさ。もうすぐ待ち合わせの時間だから、一緒に行こっ。ここは払っといてあげるからさ」
「う、うん。朝日奈さん……」
「ふふ。これであたし達、共犯みたいなモンだね。あ、いつまでも名字呼びなんて他人行儀だからさ、名前呼びでいいよ。夕子って呼んでよ。あたしもこれからは沙希って呼ぶからさ」
「う、うん、わかった。朝日奈……あ、夕子ちゃん……」
 こうして沙希は、夕子と共に初めてのパパ活に臨むこととなった。

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